みなさんは四駆、あるいは4WD、AWDという言葉をしばしば耳にすることがあることでしょう。
ここでは、みなさんがよく知っている「四輪駆動」について説明してゆきます。
そもそもこの「4WD」という言葉、これは全世界で共通というわけではなく、日本国内でのみ使われている言葉ということをご存知でしょうか?
4WDは「4 Wheel Drive」の略で、何の問題もなさそうですが、海外では基本的に四輪駆動車のことを「AWD」と呼んでいます。
これは「All Wheel Drive」の略で、日本語にすると「全輪駆動」というように表されます。
これは4輪の普通の乗用車だけでなく、6輪や8輪のトラック、特殊な構造の車にも当てはめて言うことができる便利な言葉となっています。
4WDがなぜ日本でのみ使われるようになったのかは定かではありません。
また、最近では自動車業界もグローバル化ということもあり、各自動車メーカーは自社製品の四輪駆動車のことをAWDと表記しているのが珍しく無くなってきています。
ところで、一昔前に4WD車(もしくは四駆)というと、現在でいうオフロード走行を主な目的としたSUV車や、クロスカントリー車(通称クロカン)のことを指す言葉として使われることがあったのはご存知でしょうか?
こうした車は、滑りやすい路面(泥、雪など)において、4輪の駆動輪を用いて走破性を高めるといった目的で四輪駆動システムを持っています。
そうしたことから、4WDというとそれだけで悪路走行できる!!
と、いったイメージをもたれることいったことも…。
しかし、実際に林道のような本格的な悪路走行をするにあたっては、このような本格的な車は、タイヤの大きさや、最低地上高、ボディの強度など様々な工夫がなされているので走ることができます。
よって、普通の乗用車にたまに搭載されている四輪駆動でも、一概にどこでも走れるとは言い切れません。
あくまで比較的平坦な場合の、オフロードや雪道での走行安定性の向上や、スタックしにくいといった利点があるということです。
もちろん、それとは全く別に、オンロード走行における利点も存在します。
それでは、四輪駆動の「利点・欠点」を、まとめていきましょう。
まず利点としては、
① 滑りやすい路面での走破性
② スポーツ走行をするために、大きなパワーを余すことなく路面に伝えるため
③ 確実な路面接地
が挙げられます。
この2つ目の利点は、おもにオンロード走行において活かされます。
1980年代以前、四輪駆動というとジープのような悪路走破のための特殊機構、と認識されていた頃、ドイツの自動車メーカーであるアウディが、四輪駆動について、エンジンのハイパワーを受け止めてスポーティに車を走行させるといった目的で開発、最適化しました。
それが、アウディ・クワトロ(Quattro)です。
この頃から、四輪駆動車は、
「滑りやすい路面に対しての、着実な走破性を獲得するための機構」と、
「スポーツ走行をするために、ハイパワーエンジンからの力を受け止めるための機構」
と、言った2種類の用途に、大きく分けられることになりました。
一方で欠点としてもっとも目立つものは、やはり
① 圧倒的に重量が重い
② 四輪駆動はその構造から部品点数が多く、その分値段も高くなる
③ 車重が大きいので、燃費が悪い
④ 走行時の車体の挙動も重たい感じなりがち
等があげられます。
それらの欠点を補うために、エンジンパワーを大きくしたり、サスペンションなどの足回りの工夫が必要となり、比較的高価な構造となってしまいます。
また、稼働するパーツが多い分、騒音対策も他の2輪駆動車以上にする必要があります。
単純に、車の前後のドライブユニットを一本の軸で直結すると、前後輪の回転数及びトルクが常に等しい“直結型4WD”とすることができます。
しかし、それだとコーナリング時に前後輪の異なる旋回半径を同じタイヤの回転数で走行しようとするため、突っかかったような一種のブレーキ現象が起こり、走行が困難になります。
これを“タイトコーナーブレーキ現象”といい、オフロードよりもオンロードで特に問題となります。
こうした問題を解消するために、単に直結にしているのではなく、様々な機構が考えられています。
そんな、四輪駆動車の構造について簡単に説明していきます。
それにはまず4WD機構の分類から見ていきましょう。
四輪駆動の機構は、3種類に大別されます。
① パートタイム式、
② フルタイム式、
③ ハイブリッド式
と、なります。
また、それぞれにさらに分類があります。
パートタイム式は、
・FF(前輪2輪が駆動輪)ベース
・FR(後輪2輪が駆動輪)ベース
に、分けられます。
まず、FFをベースとした4WD車についてですが、その名の通り、構造はFF車に付け足す形で四輪駆動方式としているものです。
通常はFF車として走行しているわけですが、車を停止させた後、ドライバーの任意の操作で、トランスファーと呼ばれる機構を動かし(基本的に車内の切り替えスイッチで作動させます)、後輪への駆動軸に、トランスミッションからの駆動を繋げることができます。
ここで、トランスファーとは何かについて説明します。
トランスファーとは簡単に言うと、歯車やチェーンを使って分岐を作り出す機構や、センターデフ(後述)やトルク配分を行う機構などのことをいいます。
基本的にトランスミッションの次にくる機構です。
これの詳しい機構までは言葉で説明しきれないので省略しますが、今回のパートタイム式4WDに関しては、二駆と四駆を切り替える分岐をする機構、と認識しておいてください。
FFベース4WDは基本的にエンジン、トランスミッションともに横置きで、トランスミッションにフロントファイナルドライブユニット(ファイナルギア、ディファレンシャルギアのセット)が一緒になっています。
そこからトランスファーを介し、後輪へ駆動を伝える仕組みとなっています。
この種類の機構のうち、トランスアクスル(ミッション、フロントファイナルドライブユニットを一体化してそう呼ぶ)にトランスファーまで一緒に内蔵されているものもあります。
次にFRベースについてですが、これはFFベースの逆に考えることができます。
その名の通り普段はFRとして走行し、トランスミッションの次にくる、トランスファーの分岐によって後輪2輪駆動—4輪駆動を切り替えることになります。
FRベースの機構では、車両の中央よりに位置する縦置きミッションから、前輪に駆動力を引き返させる機構としてフロントプロペラシャフトが加えられます。
この場合の多くは、すでにトランスミッションが車両の左右に対して中央にあるため、フロントプロペラシャフトはそれを避けるために、左右中央配置にすることができません。
写真中央がトランスファー、奥が車体後方。
フロントプロペラシャフト、リアプロペラシャフトともに左右中央配置でない。
真下から見上げてみた写真。左が車両前方、右が後方。
車両停車後、車内の切り替えスイッチを押すことで、電子アクチュエータが作動する仕組みとなっている。
このジムニーの四輪駆動方式は、FRベースのパートタイム式4WDとなる。
こうした配置を避けるために、フロントプロペラシャフトをフロントドライブユニットとともにトランスミッション内部に収めた、4WDドライブユニットと呼ばれるものを採用されることもあります。
基本的に、トランスファーの構造により、二輪駆動から四輪駆動を切り替える際には、車両を停止させた状態で行わなければ、切り替え出来ないタイプがほとんどです。
さて、2つめに大別されるこの機構は、さらにいくつかの種類に分けられます。
分類を挙げていく前に、このフルタイム式についてはざっくり言うと、前述したパートタイム式でもなく、ハイブリッド式(後述)でもないものがこれにあたります。
つまり、種類がとても多いということになります。
フルタイム式は主に、
・センターデフ式
・トルクスプリット式
の、2種類に分けられます。
さらに、センターデフ式は、
・機械式センターデフ
・電子制御センターデフ
また、トルクスプリット式は、
・パッシブトルクスプリット式
・アクティブトルクスプリット式(電子制御)
に、分けることができます。
ややこしいですね!
一つずつ見ていきましょう。
まずはセンターデフ式ですが、これは簡単に言うと、車両の駆動系の前後輪の各ファイナルドライブユニットの間に、その2つを連結し、“中間”に位置する1つのディファレンシャルギアがあり、そこにエンジン、トランスミッションと来る駆動力を伝える、という機構です。
このときの中間のディファレンシャルギアのことを“センターデフ”と呼ぶことから、この名称がついています。
センターデフが作動することによって、前後の回転差を吸収することができます。
常に全てのタイヤに駆動を伝えることができ、その駆動配分はほとんど50:50の場合が多いです。
この駆動方式では、常に四輪全てが接地したオンロード走行において、適切なトルク及び回転を配分することができます。
この機構の欠点は、もし1輪でも脱輪したりしてしまうと、そのタイヤに全ての駆動力が伝わってしまい、走行不能になるということです。
これに対する1つの対策としては、センターデフに差動制限させる機構を持たせることです。
具体例を挙げると、まずオフロード走行を想定した車では、デフロック機構をそなえたものが多いです。
一方で、オンロード志向のスポーツタイプの車などは、LSD(リミテッドスリップディファレンシャルの略。ここでの説明は省略)が使われることが多くなっています。
またLSDとデフロックを併用するものまであるそうです。
今説明したものは機械式の基本構造ですが、電子制御式も基本的には同じ構造です。
電子制御式の異なる点は、差動制限の機構として、多板クラッチを電子制御で圧着させて作動させるという点です。
最近では先ほどの機械式のものよりも、こうした電子制御型が主流となっています。
車内にはLSDのロック率を調整できるスイッチが備えられている。
二つ目にトルクスプリット式についてみていきます。
この方式は、ほとんどがFFベースなのでFRベースは省略して説明していきます。
この方式に使われている機構として、“回転差感応式トルク伝達装置”があります。
基本、車両が直進しているときは前後輪の回転差はないので、この装置によってトルク伝達はなされず、基本駆動であるFFとして走行します。
しかし、車両がカーブを曲がり始めると、前後輪で回転差が生まれます。
そのとき、回転差感応式トルク伝達装置によって、差が生まれた分だけトルク伝達を行うといったものなのです。
この装置には、ほとんどの車に“ビスカスカップリング”という機構が使われます。
これは前後軸の回転差から生まれた摩擦熱でオイルが膨張することを利用して、トルクを伝えていく構造になります。
それとは別に、ホンダ社が独自に開発したデュアルポンプ式というシステムがあり、これは、前後軸の回転差から生まれる力をポンプで湿式多板クラッチに伝え、トルクを伝えるように利用したものです。
いずれの機構も、前後の回転差が生まれてから受動的にトルクを伝え始めるので、パッシブ(受動)4WDと呼ばれています。
また普段は二輪駆動で待機しているため、スタンバイ4WDと呼ばれることもあります。
このように「普段は二輪駆動」というと、切り替えを行うパートタイムに分類されそうですが、車両は直進しているときよりも、ステアリングを動かしている時間の方が圧倒的に長いので、実際は常に後輪にもトルクが伝えられるフルタイム式とみなすことができます。
また、このトルクスプリット式にも電子制御式があり、センサーでタイヤの回転差を感知し、電子アクチュエータで湿式多板クラッチを作動させ、トルク配分を制御するという機構もあります。
これを“アクティブトルクスプリット式”といいます。
このトルクスプリット式の利点は、FF車から比較的簡単に構造を変えることができるので、低コストで、車内空間に影響が出にくいという点などが挙げられます。また、脱輪があった場合、そのとき回転差が最大になるので、その瞬間は直結型4WDになり、脱出することができます。
車内に切り替えスイッチがあり、2WD,AUTO4WD,LOCKの3つのモードに切り替えることができる。
写真奥が車両前方。
最後に紹介するのは、原動機がエンジンだけでなくプラスαとして“モータが組み込まれた機構”として分けた、ハイブリッド式についてです。
別名“パラレル式ハイブリッド”とも呼ばれ、主にFF車の非駆動輪である後輪にモータが組み込まれる仕組みになります。
これは、これまでの1つのエンジンからの駆動を、なんとかして配分するといった考え方から大きく異なります。
ここではその詳しい構造までは触れることはできませんが、利点としていくつかの点を説明します。
既存の車種を簡単に4WD化できるといった点や、電子制御による細かい駆動力の制御、単純にハイブリッド車としての利点を引き継げるなどの点が挙げられます。
欠点として、システムの複雑化や重量増加、値段が高くなるといった点があります。
しかし総合して見ると、近年の自動車社会に合ったシステムなので、今後様々なものが開発され、発展していくと考えられます。
以上で、大別した3つの四輪駆動について紹介しました。
しかし、最初の2種類の分類に関して、場合によっては“電子制御式4WD”を、別の分類とする見方もあります。
今回は、基本的な機械式での構造の違いからパートタイム式、フルタイム式と区別し、その中でそれぞれを発展させた形として電子制御式がある、というように分類しました。
つまり分類の仕方は一通りではないということなので、皆さんも調べてみてはいかがですか?
この記事では、細かい機械要素について一つ一つそれらの全てを説明することはできませんでしたが、四輪駆動の広く深い世界を紹介させていただきました。
前述しましたが、構造についての分類は特に難しく、メーカーによっては呼び方が違ったり、使われている部品の名前も違ったりと非常にわかりにくいところがあります。
ここで紹介したもの以外にも、複雑に制御された機構はメーカーにより様々です。
同じ4WD車でも、ほんの一部の機構が異なるだけでその走行性能は違ってくるといったことを、この記事で理解し、興味を持ってAWD車を観てみると面白いでしょう。
(執筆 : 広島大学体育会自動車部)