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自動車のエンジンを分解してみよう。

こんにちは。
岐阜大学自動車部です。

今回はとある自動車のエンジンを分解し、その仕組みや構造について画像を交えながら紹介していきます。
尚、今回の分解作業は破棄する予定のエンジンを用い、部品類の再使用を行わない前提で進めます。
通常、エンジンの分解修理には高度で、精密な作業が求められますので、十分にご注意ください。

今回分解するエンジンは、日産のSR20DEというエンジンです。
20年ほど前に生産されたエンジンで、走行距離は約7万キロです。
異音などは特になく、問題なく動作していました。

このエンジンは、一昔前の日産車のモデルのセレナ、シルビア、プリメーラ、ブルーバードなどに広く使用されていました。
排気量は、1998㏄、4気筒DOHC16バルブ、アルミ製の自然吸気エンジンです。
車種によって縦置き・横置きにレイアウトが変更されています。
シルビアなどのスポーツモデルでは、使用ガソリンが変更されます。

さらに、S15シルビアのオーテックバージョンでは、純正状態でピストン形状や、エンジン制御が変更されたモデルが存在するなど、バリエーションのあるエンジンです。

ちなみに、このエンジンの姉妹モデルとして、SR20DETというターボ仕様も存在します。こちらは、モータースポーツ用のチューニングベースとして、国内外で大変人気があります。近年では、SR20DEを加工してSR20DETとして使用する例があります。
見た目こそ似ているものの、圧縮比やオイルラインが異なるなど、様々な仕様変更が必要になります。

(画像1)SR20DEをエンジンスタンドに固定
(画像1)SR20DEをエンジンスタンドに固定

それでは、早速エンジンを分解していきましょう。
まずは、エンジンをエンジンスタンドに固定します(画像1)。
固定箇所は、ミッションハウジングとの接合部です。

エンジンを確実に固定するほか、エンジンを上下反転させる工程がある為、エンジンスタンドはエンジン分解に不可欠です。
エンジンは、50kgほどの重量があるので、エンジンの移動にはクレーンまたは、力持ちな友達数人が必要です。

(画像1)向かって右が吸気側、左が排気側になります。
吸気側のエンジン横に装着されている箱状のものは、サージタンクと呼ばれる吸気を各気筒に安定して供給するためのものです。

(画像2)取りはずされたロッカーカバー
(画像2)取りはずされたロッカーカバー

次にロッカーカバーを外します。
(画像2)車のボンネットを開けた際に、エンジンの最上部としてまず初めに、目につく部分ですね。

これは、車種によってカムカバー、タペットカバー、ヘッドカバーなど様々な呼称がありますが、日産のサービスマニュアルでは、ロッカーカバーと言われているようです。

ロッカーカバーは、15本ものボルトで固定されています。
このような場合、ボルトの締め付け具合の違いによる、部品の破損を防ぐ為、端から中央に向かって徐々に緩めていきます。
組付けの際はその逆です。

ロッカーカバー右下に見える、黒色のキャップは、エンジンオイルのフィラーキャップ、つまりエンジンオイルを交換する際に、オイルを注入する部分です。

ロッカーカバーには、NISSAN、TWINCAM 16VALVEの浮き文字があります。TWINCAM 16VALVEとはどのような意味なのでしょうか?
分解作業を進めて明らかにしましょう。

(画像3)ロッカーカバーの内部。
(画像3)ロッカーカバーの内部。

ロッカーカバーの内部を見てみましょう(画像3)。
年式のわりにスラッジ等が少なく、適切にオイル管理されていたことが分かります。
中央に見える4個の穴はプラグホール、つまり点火プラグが装着される部分です。

その両脇にある、2本の棒状のものがカムシャフトです。
ロッカーカバーに書かれていた、TWINCAMとはこのような意味だったのですね。
カムシャフトは、エンジンの吸気と排気をコントロールする弁である、シリンダーバルブを開け閉めする役割を持ちます。

写真手前のチェーンは、タイミングチェーンと呼ばれる、カムシャフトを駆動するためのものです。
一昔前までは、10万キロを超えた自動車は、タイミングベルトを交換しなくてはならないとよく言われていました。

タイミングベルトは、ゴム製の為、経年劣化によって傷んでしまうのです。
近年の車では、タイミングベルトが金属製のタイミングチェーンに置き換わり、交換時期を気にする必要が殆どなくなったのです。

(画像4)日産の可変バルブタイミング機構、NVCS。
(画像4)日産の可変バルブタイミング機構、NVCS。

ちなみに、このSR20DEにはNVCSと呼ばれる可変バルブタイミング機構が、装着されています。
(画像4)の手前左側に写っている円筒状のものです。

これは、エンジンの回転数に応じて、カムシャフトの回転角を2段階に変化させ、トルクと燃費の向上を図るものです。
NVCSが作動すると、吸気側のカムシャフトが10度近く進角されますが、作動の切り替わりを体感することは殆どできません。

似たような機構に、ホンダのVTECが挙げられますが、こちらはカムそのものをエンジン回転数に応じて切り替える仕組みになっているので、走行中にカムの切り替わりを体感できるほどの変化があります。

NVCSの右隣に写っている円筒形のギアは、ディストリビューターの駆動ギアです。
ディストリビューターは、クランクシャフトの回転角を検知し、最適なタイミングで点火する役割を持ちます。

 (画像5)カムシャフトを取り外した様子。
 (画像5)カムシャフトを取り外した様子。

カムシャフトを取り外しました(画像5)。
カムシャフトの台座には、穴や溝が開けられており、カムシャフトへのオイル供給が図られていたことが分かります。

プラグホールの、両脇に見えるY字型の部品は、ロッカーアームと呼ばれるものです。
カムシャフトの動力は、ロッカーアームを介して分岐されるので、1つのカムシャフトのカムで2つのシリンダーバルブを、作動させることができるのです。

一般には、カムシャフトが直接的に、シリンダーバルブを開閉しているエンジンが多いですが、SR20DEでは、構造単純化やフリクション低減のために、ロッカーアームを採用しているようです。

次に、エンジンのシリンダーヘッドと、シリンダーブロックを分離します。
ヘッドと、シリンダーブロックは、ヘッドボルトと呼ばれる大きなボルトで締結されており、エンジンは上下二つに分離することができます。

ヘッドと、シリンダーブロックの間には、ヘッドガスケットと呼ばれるガスケットが、挟み込まれており、燃焼室内の圧力を保持しています。

(画像6)シリンダーヘッドの裏側。
 (画像6)シリンダーヘッドの裏側。

シリンダーヘッドの裏側を見ると、シリンダーバルブが各気筒4個ずつ配置されています(画像6)。
ロッカーカバーに書かれていた、16VALVEとはこのような意味だったのですね。
シリンダーバルブ中央に見える穴は、プラグホールで、ここから点火プラグの先端が燃焼室内に顔を出しています。

シリンダーバルブ外周に、開いているたくさんの穴は、オイルラインとウォーターラインです。
オイルラインと、ウォーターラインは、ヘッドガスケットによって分け隔てられています。

しかし、エンジンのオーバーヒートなどによりシリンダーヘッドが歪む、ヘッドガスケットが吹き抜けるなどすると、高温のオイルと冷却水が混ざり合い、大量の水蒸気が発生します。
映画などで、車がオーバーヒートしてボンネットから白煙が吹き上がるシーンがありますが、このような原理だったのですね。

(画像7)シリンダーブロックの様子。
(画像7)シリンダーブロックの様子。

シリンダーブロックの様子です。
ピストンの周りに見えているのが、ヘッドガスケットです。
そして、いよいよピストンが姿を現しました。

SR20DEのピストンは、上部が真っ平になっています。
スラッジなどは少なく、良いコンディションです。
ちなみにSR20DETの場合は、ピストン中央部が窪んでいますが、これはターボ化に伴い圧縮比を下げるためです。

(画像8)オイルパンの内部。
(画像8)オイルパンの内部。

次に、ピストンをシリンダーから引き抜くため、エンジンスタンドを回転させて、エンジンを上下反転させます(画像8)。
エンジンオイルの、受け皿のような役割を持つオイルパンのロアとアッパーを取り外すと、クランクシャフトが姿を現しました。

画像奥に見える円形状のものは、オイルストレーナーと呼ばれるエンジンオイルの吸い口です。

(画像9)クランクシャフトのメインベアリング。
(画像9)クランクシャフトのメインベアリング。

クランクシャフトの、メインベアリングキャップを取り外し、メインベアリングの状態を確認しました。
意外にも、メインベアリングの状態は悪く、目視でもわかる摩耗や異物の噛み込み痕がありました。

SR20DEの、クランクシャフトのオイルクリアランスの限度値は、0.05㎜ですから、目視でわかるほどの摩耗など問題外です。

(画像10)クランクシャフトのスラストベアリング。
 (画像10)クランクシャフトのスラストベアリング。

さらに、クランクシャフトの、スラスト方向のクリアランスを保持するスラストベアリングの状態を確認すると、激しく摩耗しており、一部メタルが剥がれ落ちていました。
原因は不明ですが、ミッション側のトラブルなどの要因により、クランクシャフトがスラスト方向に、押さえつけられていた可能性があるかもしれません。

(画像11)取りはずされたピストン
(画像11)取りはずされたピストン

最後に、クランクシャフトとピストンを分離し、ピストンを4つ並べました(画像11)。
少し汚いですが、ピストンリングの固着などはなく、正常な状態でした。

(画像12)ピストンのスカート部分に発生したクラック
(画像12)ピストンのスカート部分に発生したクラック

しかし、ピストンを一つずつよく見てみると、スカート部分にクラックが発生しているものがありました(画像12)。
画像だとわかりにくいですが、ピストンに大きなひび割れが発生しています。
もう少しで、ピストンがバラバラになってしまうところでした。
原因は不明ですが、先ほど紹介したクランクシャフトの、メインベアリングの摩耗と関連があるのかもしれません。

以上、「自動車のエンジンを分解してみよう。」でした。
実際に、エンジンを分解しながら構造を把握することで、エンジンの仕組みをイメージしていただけたのではないでしょうか?

今回は、分解のみを行いましたが、組付けの際は、各部の計測など高精度な作業が必要で、私にはとてもこなせないものだと思いました。
また、今回のエンジンには、意外な欠陥が見つかりました。

原因は特定できませんでしたが、エンジンなどの機械製品はそれまで調子が良くても、ある日突然、壊れて動かなくなってしまう可能性があるものと、学ぶことができました。
今後、中古車選びをする際は、十分に気を付けようと思いました。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
【筆者:岐阜大学自動車部】

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