みなさんこんにちは。北海道大学自動車部です。
普段、自動車競技に触れることが多い私たちですが、今回は趣向を変え、排気ガス(以下、排ガス)に関するお話をしようかと思います。
自動車の排ガスに含まれている環境に悪いものというと、二酸化炭素を思い浮かべる人がほとんどだと思います。
ディーゼル車については黒煙を連想する人もいるかもしれません。
しかし、排ガスに含まれている大気汚染物質はこれだけではないのです。
これから大気汚染物質の種類について、以下に示していこうと思います。
CO2は一般に知られているように温室効果ガスの一種で、地球温暖化の原因となっている物質です。
ちなみに自動車の燃料となるガソリンや軽油は、炭素原子(C)や水素原子(H)が組み合わさった物質が主成分なのですが、CO2は燃料が燃える際に炭素原子(C)と酸素原子(O)が組み合わさることでできます。そのためCO2の排出量は燃やした燃料の量でほとんど決まってしまいます。
COはCO2と同様にCとOが組み合わさってできているのですが、特に酸素が足りない状態で燃料が燃えるとCOが大量に発生してしまいます。
人間は呼吸によって酸素(O2)を取り込んでいますが、空気中に含まれているCOが多くなるとO2の代わりにCOが取り込まれてしまいます。
すると一酸化炭素中毒を発症してしまい、最悪の場合は死に至ることもあります。
HCとは水素原子(H)と炭素原子(C)によって構成された物質の総称です。
二酸化炭素の項でも述べたように、自動車の燃料も基本的にHとCでできた物質なので、HCの正体は燃え切らなかった燃料です。
燃料に対するO2の量が少ないと、より多くのHCが排出されるようになります。
HCが大気中に多く含まれると、光化学スモッグと呼ばれる現象が引き起こされます。
光化学スモッグは視界不良の原因となるだけでなく、人体(特に粘膜)への刺激性も強いため、健康被害の原因にもなります。
NOxは窒素原子(N)と酸素原子(O)が組み合わさった物資の総称です。
窒素(N2)や酸素(O2)は共に空気中に多く含まれている物質ですが、室温ぐらいの温度ではNとOが組み合わさることはありません。
しかし、1000℃以上の高温にさらされるエンジン内部ではNOxとなってしまいます。
NOxはHCと同じように光化学スモッグの原因となるだけでなく、酸性雨の原因にもなっています。
PMとは非常に小さな粒となっている個体や液体の事で、有名なところではPM2.5などがその一種です。
自動車の排ガスに含まれるPMはそのほとんどが煤で、ディーゼル車や、直噴ガソリン車において問題になることがあります。
PMは呼吸器系の病気を誘発すると考えられており、発がん性も持つと考えられています。
以上、排ガスに含まれる大気汚染物質について示しましたが、CO2以外については昔と比べて排出量が激減しています。今後も規制強化を受けてさらに減少していくことでしょう。
では、どうやってこれら大気汚染物質の排出量が低減されたのでしょうか?
動力源であるエンジンの改良も一つの理由ですが、メインは触媒やDPFといった排ガス浄化装置のおかげなのです。
先ほど、大気汚染物質の排出量が低減されたのは排ガス浄化装置のおかげと述べましたが、実際にはどのようにして浄化を行なっているのでしょうか?
実は、排ガスの浄化というのは基本的にはパズルのようなものです。
つまり、大気汚染物質に対して新たな原子を加える、もしくは原子を抜き出すことで、大気汚染物質を浄化することができます。
そのおおまかな方法は次の通りです。
COは酸素原子(O)を加えればCO2となります。これによりCO2の排出量は増えることにはなりますが、少なくともCO2は人体への毒性は有りません。
また、もともとCOの排出量はCO2に比べて小さいのでCOがCO2に代わることによる影響は小さいと言えます。
HCもOを加えることで水(H2O)とCO2にすることができます。
NOxはOを抜き取ることで窒素(N2)にすることができます。
PMの主成分である煤も主に炭素原子(C)で構成される物質であるため、Oを加えればCO2にすることができます。
とはいえ、実際に上記の変化を行わせるためには触媒のような装置を必要とします。
触媒とは、行なわせたい反応を促進させることのできる物質のことです。実際には図1のような格子状の物体の内壁を触媒となる物質でコーティングし、格子の中に排ガスを通すことで反応を行なわせます。
ただし、ガソリン車とディーゼル車では燃料の燃やし方が異なることから、排ガスの浄化方法が異なります。そこで、実際の自動車ではどのようにして排ガスを浄化しているのか、それぞれ別に示していこうと思います。
ガソリン車では「三元触媒」(図2参照)を用いてCO、HC、NOxを一度に浄化します。というのもCO、HCの浄化に必要な酸素原子(O)はNOxから得ることができるためです。
しかし、三元触媒が正しく作用するためにはCO、HC、NOxが排ガス中にバランスよく含まれていなければなりません。
そのためガソリンエンジンでは、エンジンに取り込まれる燃料と空気の比率を、センサーを用いて細かく制御しています。
ディーゼル車ではほとんどの場合で燃料に対する空気の量が多すぎるため、三元触媒を用いることはできません。また、PMの処理も行なう必要があります。
そこで、CO、HCは「酸化触媒」を用いて浄化し、NOxは「SCR」もしくは「NOx吸蔵還元触媒」を用いて浄化し、PMは「DPF」を用いて処理します。
ディーゼルエンジンでは酸化触媒の作動に必要なOは排ガス中に十分含まれているため、酸化触媒を用いればCO、HCの浄化を簡単に行うことができます。
NOxを浄化する場合、触媒内にNOxを蓄えられる金属を含ませておき、まずはそこへ排ガス中のNOxを吸着させておきます。
SCRではその後、尿素( CO(NH2)2 )を触媒内で反応させてアンモニア(NH3)に変化させ、NH3とNOxを反応させることでNOxを浄化します。
NOx吸蔵還元触媒では、一時的に余分な燃料を供給することでHCや水素(H2)を触媒へ供給し、NOxと反応させます。
PMは排ガスに含まれる成分の中で唯一の個体であるため、フィルターを使えば簡単に排出を防ぐことはできます。そのフィルターがDPFです。(図3参照)
とはいえ、そのままではフィルターも詰まってしまいます。そこでDPF内のPMを端的にいえば燃やしてしまいます。
そこで、ヒーターによる加熱を行なったり、DPFの前に酸化触媒を置いて触媒内の反応から出た熱を利用したり、排ガスが高温となるような運転状態にすることでDPF内のPMが燃えてCO2になるようにしています。
ところで、排ガスが関わるものでもう1つ忘れてはならないものがあります。
それは排気音についての騒音対策です。
この排気音を低減するために、自動車には図4に示すようなマフラー(消音器)が取り付けられています。
マフラーは本体とテールパイプに分かれています。排気音の低減は主に本体で行なわれますが、テールパイプもその補助を行なっていることが多いので、どちらか一方を変えるだけでも排気音の聞こえ方は大きく変化します。
そもそも、なぜ排気音が発生するのかについてですが、エンジンから出た直後の排ガスは高い圧力を持っています。そのまま排ガスが排気管から大気中へでると、排ガスは一気に膨張し、それによって大きな音を発生してしまうのです。
つまり、排ガスがゆっくり膨張するようにすれば音は小さくなるのです。
そこで、マフラー本体の内部を複数の部屋に分け、段階的に排ガスを膨張させることで音が小さくなるようにしています。
その際、マフラー内で既に発生している音と、新たにマフラー内で発生した音が打ち消し合うように部屋の形を工夫したり、吸音材と呼ばれるものを使ってマフラー内の音が外へ逃げる前により音を小さくしたりするといった対策もなされています。
以上、排ガスを浄化するための装置について紹介しました。
では、排ガスによる環境汚染を防ぐために私たちができることは何でしょうか?
分かりやすいところでは燃料を燃やさなければ排ガスも出ないので、基本的には必要のないときは自動車に乗らない、それ以外の場合は燃費の良い運転を心がければ良いのです。
特にCO2についてはこれ以外にできることは無いでしょう。
一方で、それ以外の環境汚染物質については触媒などの特性にあわせて運転を工夫することで、できるだけ排ガスをクリーンに保つことができます。
ここからは個人の見解になりますが、以下のことが大切です。
必要以上にアクセルを踏んで加速することは、それだけでも燃料の無駄につながります。それに加えてガソリン車の場合はエンジンに取り込まれる燃料と空気のバランスが崩れることで、先述した三元触媒がしっかりと機能しなくなってしまいます。
心と時間に余裕をもって、穏やかに加速するような運転をすることが大切です。
実はガソリン車、ディーゼル車、どちらにおいても触媒が高温でないと、排ガスの浄化がうまくいきません。そのため、近場への移動ではエンジンや触媒が十分に温まる前に車を停めてしまうので、浄化されていない排ガスばかりを出してしまいます。
大きな荷物も無く、近場へ行くだけなのであれば、徒歩や自転車で向かいましょう。
ごくまれにパワーアップのためといって触媒を撤去したり、不正なマフラーへ交換したりしてしまう人がいますが、それこそ浄化されてない排ガスや騒音をまき散らす行為なのでやってはいけません。
そもそも、近年の自動車のエンジンは様々なセンサーを用いて繊細に制御されているため、触媒の撤去などの不用意な改造は思わぬ自動車の不調を招く可能性すらあります。
何のために触媒やマフラーが取り付けられているのかを考え、その意味を無駄にしないようにしましょう。
実際のところ、電気自動車であれば排ガス問題はない(もしくは発電所での対策となる)のですが、航続距離や充電時間にまだ難があり、普及はまだまだこれからといったところです。
依然として、石油を燃料とする自動車が主体となる事でしょう。
自動車は便利な道具であり、時に大切な相棒であったりしますが、間違った乗り方によって地球環境を悪化させては元も子もありません。
これからも自動車に乗り続けるためにも、何も考えず雑に乗るのではなく、できるだけ知識を持ったうえで正しく乗ることが必要なのだと思います。
(執筆:北海道大学自動車部)