今回はマツダロードスター(NA)の、車高調整式サスペンションのセッティングでの経験を、紹介したいと思います。
ロードスターのNA、NBは、サスペンション回りの構造上ストロークが不足する傾向が大きいです。
特にリアに至っては、多くの社外品がストローク不足のため、せっかくの車高調整式サスペンションを活かしきれていないです。
そのため、今あるダンパーを活かせるように、改善していくことにしました。
まずは、自分の持っているCSTの車高調整式サスペンションの現状を、把握するために情報を収集します。
車検証に記載の前後軸重から、前後それぞれの片輪のバネ上重量を求めます。
[軸重(kg)÷2=一輪当たりのバネ上重量(kg)]
本当は、ドライバーの重量や、追加装備品を足してホイールやブレーキなどの、バネ下重量を引かなければならないのです。
ですが、ロードスターの場合、大体トントンだったので簡略化しました。
自分のロードスターのバネ上重量は、フロント250(kg)、リア210(kg)になりました。
次にレバー比を測定します。
ダブルウィッシュボーンの場合は、ロアアーム付け根からダンパー下端、ロアアーム付け根からタイヤの中心までの長さの比を使います。
[レバー比=ロアアーム付け根から、タイヤの中心までの長さ(mm)÷ロアアーム付け根からダンパー下端までの長さ(mm)]
オフセットが、+45のロードスター純正ホイールの場合の計算結果です。
自分のホイールは、オフセットが+35なので10mmワイドになっています。
それを加味して計算します。
次にダンパーの採寸をします。
自分のロードスターには、購入時からCSTというメーカーの車高調整式サスペンションがついていました。
CSTのダンパーのロッド長さは74mm、ストローク長さが68mmでした。
つまりデッドストロークが6mmあります。
計算してバネレート選ぶ際に、気を付ける事と、目指すところを考えます。
ストロークの途中で、バンプラバーに当たると、急激にバネレートが上昇することになり、脚の動きが妨げられます。
そうすると、車の挙動がリニアではなくなるので、今回はできるだけバンプタッチを避け、リニアに足が動くようにします。
では、何Gの荷重までバンプタッチしなければ、リニアに動くといえるでしょうか。
車が静止状態では、1輪ごとのバネ上重量がサスペンションにかかるので、1Gの荷重がのっていることになります。
コーナリングをすると、内側の荷重が減り、外側の荷重が増えます。
今回は、静止状態の2倍である2Gを、目標の最大許容荷重(バンプタッチする荷重)にしたいと思います。
つまり片輪に全車重がのるような感じです。
路面は、完全にフラットではなく、多くのギャップや段差があります。
それらを乗り越える際に、サスペンションには2Gどころではない荷重がかかります。
そのままでは、ダンパーが縮みきる底突きが、発生してしまいます。
底突きをさせたまま乗っていると、中のバルブが壊れるなどしてダンパーがブローしてしまいます。
ですから、底突きする前にバンプラバーに当てて、ダンパーを守ります。
サスペンションの、ダンパーストロークは決まっていて、ダンパーを買い替えない限り、変わらないです。
そのストロークを、縮み側と伸び側に割り振らなくてはいけません。
縮みストロークが多ければ、バンプタッチまでのストロークが多くなり、最大荷重が増えます。
しかし、縮みストロークを増やしすぎると、伸びストロークが少なくなってしまいます。
伸びストロークが少なくなると、コーナリング中にイン側のタイヤが浮いてしまったり、段差を超えた際に、タイヤが地面から離れてしまったりして、乗り心地もトラクションも悪くなります。
目標は、最大荷重を満たせるだけの縮みストロークを確保しながら、伸びストロークも確保することです。
図のA2のように、ジャッキアップした車体にサスペンションをつけて着地させると、A1のように車重でサスペンションが縮みます。
これが1G状態です。
この時黄色矢印が縮みストローク、赤色矢印が伸びストロークになります。
この比率は、車重とバネレートで決まってしまいます。
しかし、微調整することも可能です。
着地して、1G状態のA1のスプリングロアシートを回し黒矢印のように10mm上にあげてB1にします。
そうすると、ロアシートに乗っているバネと、車体の位置が10mm高くなります。
車重は変わらないので、バネの長さは変わりません。
しかし、この時ダンパーのロッドが10mm上に上がりました。
そのため黄色矢印が10mm長くなり、赤色矢印が10mm短くなりました。
つまり、1G時での縮みストロークと、伸びストロークの比率が変わったのです。
では、このB1の車をジャッキアップします。
ジャッキアップすると、バネが伸びていき0GであるB2になります。
しかし、ダンパーは赤色矢印(伸びストローク)の長さ分しか伸びられないので、そこでタイヤが浮きます。
この時B2のバネの長さ(緑色矢印)は、A2の時より10mm縮んだ状態です。
これを、プリロードといいます。
このように、プリロードを調整することで、伸びと縮みの割合を調節することができます。
A1とB1の車体の位置を比べると分かるように、プリロードでストローク比率を調整すると副作用として車高が変わってしまいます。
バネのストローク(縮み量)にも限界があります。
これは、バネのメーカーホームページに載っていることが多いです。
バネの最大許容ストロークとは、これ以上バネを縮めると、壊れてしまうかもしれないという量です。
これを避けるためには、ダンパーのストロークよりも、バネの許容ストロークが長いものを選べば安心です。
基本的に、バネのバネレートは一定ではありません。
縮みはじめは、記載バネレートより柔らかく、許容ストローク付近になると硬くなります。
中には、最初から最後までバネレートができる限り一定であることを、謳っているバネもありますが価格が高いです。
一般的に、バネのストローク率(許容ストロークの何%縮んでいるか)が、25%~75%が表記バネレートに近いといわれています。
ですから今回は、バネの許容ストロークが長めの物を選び、バンプタッチした際のストローク率が、なるべく75%以下になるものを選んでみました。
では、以上のことを踏まえ最大許容荷重(G)を計算します。
最大許容荷重(G)=(バネレート(Kg/mm) × バンプタッチまでのストローク(mm))÷(バネ上重量(Kg) × レバー比)
で求められます。
ではExcelを利用して計算してみます。
この計算結果から、フロント12k、リア10kのバネを使えば、最大許容荷重はフロント2.01G、リア2.08Gになると判明しました。
16mmのバンプラバーを入れ底突き防止、さらにバネは許容ストロークがダンパーストロークよりも十分長いものを選びました。
車高調を組み立てる際に、ロッドにちょうどいいサイズのOリングをつけておくと、1Gの時どこまで縮んだか、サーキットを走った際に最大どこまで縮んだかを、見ることができます。
簡略的な計算では、バンプタッチしない予定でも、現実はもっと多くの要素が絡んでくるのでOリングをストロークセンサーとして活用し、計算結果と現実の結果が一致しているか確認します。
Oリングをつけ忘れてしまったら、細めのタイラップを巻けば同じように見ることができます。
では、実際に美浜サーキットを走ってみます。
タイラップを見ると、バンプタッチはしていないので良い感じです。
しかし、1つ問題点が出てきました。
リアの伸びストロークが足りません。
そこで-2mmプリロードをかける、つまりバネを2mm遊ばせます。
そうすることで、縮みストロークが減って最大許容荷重は減りますが、伸びストロークを増やすことができます。
次に、現状だとリアの車高が高くなってしまっているので、リアの車高をもっと下げます。
手元にあった、クスコのストロークアップアッパーマウントを利用し、ダンパーのロッドの固定位置を10mm上昇させます。
車高バランスも良くなったので、またテスト走行に行きます。
今回のテスト走行では、減衰セッティングを調整しました。
前後2段差がベストバランスと分かりました。
フロント全締めリア2段緩めにして走りました。
バランスはベストですが、あと少し減衰が足りません。
もう1、2段階締めたい感じです。
バネレートは、バンプタッチせずにいい感じなのですが、美浜に12k10kは気持ち硬すぎる気がします。
考えられる解決策は、バネを柔らかくすることです。
そうすることで、減衰が足りない問題も緩和され、美浜に適したやわらかさに近づけられます。
前回のテスト走行の結果8kのバネを購入することにしました。
フロントに10kリアに8kを装着します。
計算上最大許容荷重2Gが満たせていません。
プリロードを3mmかけても満たしていません。
テスト走行後、タイラップを見るとやはり、バンプタッチしてしまっていました。
このCSTダンパーで、12k10kは減衰が足りないし12k10kのバネは自分の走るサーキットでは気持ち硬すぎます。
しかし、やわらかい10k8kではダンパーストロークが足りず、バンプタッチしてしまいます。
ここまでお金をかけずに、バネの購入のみで試してみましたが、ダンパーのサイズからくる壁に当たってしまい、どうにもならなくなってしまいました。
しかし、ここまで試してみてサスペンションを弄る楽しさに気づいてしまったので、ダンパーを変えてみることにしました。
様々なダンパーを検索、問い合わせをして、寸法から使えそうなものを探します。
候補は、ZZR、テイン、コニ、オーリンズ等が上がりました。
新品価格で比べると、テインとZZRが圧倒的に安いです。
しかし、当時の自分はそれでも手が届かなかったので、中古を探しました。
ダンパーの中古はギャンブルです。
ダンパーが抜けていたら、使い物にならないからです。
テインとZZRを狙っていたのですが、中古が全然なく価格も新品とあまり変わりません。コニはそもそも中古が一切出て来ません。
しかし、オーリンズの中古は多く見つかりました。
ベストなダンパーかどうかはわからないですが、中古価格が他のダンパーに比べ安く、OH対応のため、万が一ギャンブルではずれを引いてしまっても、OHベースとして買った価格とほぼ同じ価格で売れることから、中古オーリンズでギャンブルをすることにしました。
ヤフオクにて、44,000円でダンパーとおまけのバネ複数本をゲットしました。
CSTは、12k10kのバネで使うには、減衰が気持ち足らなかったですが、吊るしの8k6kのバネで使うには、減衰は足りていたので売却。
購入したオーリンズより高い価格で売れたので、差額で必要なバネを購入しました。
到着したダンパーの、検品と採寸をします。
ダンパーは抜けていませんでした。
サイズは、デッドストロークが2mmあり、予定より気持ち少ないですが10k8kもチャレンジできそうです。
計算通り組んでみます。
オーリンズのPCVは、ダンパーのケース長さがとても悪いです。
フロントが短くてリアが長すぎます。
フロントが、短い分にはアッパーにカラーを入れて、合わせられるので大丈夫ですが、リアのケース長が長すぎて、車高が下がりません。
そこで、今までと同じようにクスコマウントを使います。
それでも、もう少し下げたいのですが、別のストロークアップアッパーマウントを買うお金が無いため現状で我慢します。
ダンパーの減衰は、縮側減衰が強めのため、伸び側減衰がちょうどよいくらいの減衰まで
締めると、縮側が硬くなり過ぎ、乗り心地にごつごつ感が出てしまいます。
しかし減衰は十分足りています。
実際に、美浜でテストしてみます。
美浜では、減衰前後とも8段戻しがちょうどよかったです。
バンプタッチも、縁石以外は回避できていました。
もう少し車高を下げるための、ストロークアップアッパーマウントが高くて買えませんでしたが、NBの純正アッパーマウントを手に入れたので、自作してみることにしました。
アッパーマウントの、ダンパーロッド固定部分をかさ上げすることで、車高を下げることができます。
しかし、プリロードを今までと同じに保つには、ダンパーをかさ上げした分、ロアシートを下げなければいけません。
ということで、自由長が10mm短いバネを購入しました。
これで、リアの車高調整幅は十分になりました。
フロントを、オーリンズ純正アッパーで限界まで下げ、それに合わせてトラクション重視のリアはフロントより1㎝ほど下げました。
しかし、ここで新たな問題が発生しました。
サーキットでは大丈夫だったのですが、ギャップでバンプラバーが縮み切る前にアームロックが発生するようになってしまいました。
リアアッパーアームがボディに干渉してしまうのです。
ということで、ボディ側を削ります。
それでも、干渉する分はアッパーにカラーを挟み、3mm車高を上げることで解消しました。
その後調子よく、半年以上グリップやドリフトを楽しんでいたのですが、事件が発生してしまいました。
ダンパーブローです。
バンプタッチした時に、唐突に挙動が変わることを恐れ、そっとバンプタッチするようにやわらかいバンプラバーを使っていたにもかかわらず、バンプラバーを薄く削りすぎてしまったのが原因かもしれません。
高価なダンパーを、壊してしまっては元も子もないので、バンプラバーの削りすぎには注意しましょう。
有難いことに、同じダンパーがもう1セットあったので、交換し対策をします。
1やわらかいバンプラバーを長くする。
最大許容荷重が下がり、バンプタッチしてしまうのは避けたいので、最終手段です。
2同じ長さで硬くする。
唐突なバンプタッチは、もっと嫌なのでこれは却下です。
3やわらかいバンプラバーと、とても硬いバンプラバーを組み合わせる。
やわらかいバンプラバーで、そっとバンプタッチさせながらも、最後の最後は硬いウレタンバンプラバーを入れ、絶対に底突きしないようにします。
この対策を採用しました。
純正ブッシュが劣化して、ブッシュがずれ軋み音がしたり、アライメントを合わすのがめんどうくさくなってきたりしました。
純正ブッシュ打ち換えと、言いたいところですが、22個すべて交換すると高いです。
そこで、アメリカからウレタンブッシュを取り寄せました。
22個のウレタンブッシュと、ウレタンデフマウント、ウレタンスタビブッシュ(自分の車はサイズ違いで使えないですが)すべてが入って、2万円以下でゲットすることができました。
さっそく交換しました。
今までの純正ブッシュがよじれることで、発生していた抵抗がなくなり、ウレタンブッシュが滑ることで、動きが大きくなりました。
しかし、その分ストロークが増えてしまいました。
純正ブッシュの抵抗が減った分、バネレートを少しだけアップさせたほうが、良いかもしれません。
フロント、リア共にトレッド拡大を考えています。
ただ、ウレタンブッシュのせいで、ストローク量が増えかつかつになってしまったため、トレッドを広げるとともに、バネレートもそれ相応にアップする必要があると思われます。
さらに、いずれは減衰についても学んでみたいと思います。
高くて買えなかったZZRや、オーリンズとは性格の違う伸び側減衰強めのコニなど、様々な特性のダンパーがあるので、いろいろ試してみたいです。
また、ダンパーをOHすると仕様変更をしてもらえ、自分好みの減衰に設定してもらえます。
しかし現状では、まだまだ勉強不足なため、自分にとって適した減衰というのがわかりません。
これからも少しずつ経験を重ね勉強していきたいです。
サスペンションの、セッティングを細かくやっていこうと思わなくても、とりあえず自分の持っている、もしくは買う予定の車高調整式サスペンションの現状を、把握してみましょう。
ショップや、メーカーによっては、デフォルトセッティングではしっかりサスペンションを活かせていないものを、売っているところもあるので、自分で計算してみる必要があります。
もし、自分のサスペンションがしっかり活かしきれていないものだった場合、改善できるか計算して改善してみましょう。
その際、ダンパーの寸法的に改善できなさそうな場合は、ダンパーの買い替えも検討しましょう。
自分は、そのままでいけると思ったのですが、のちに限界が来てしまい買い替えることになりました。
ショップや、ノウハウのある人に組んでもらえば、自分で試行錯誤しなくてもいいサスペンションまでワープできます。
そして、たいていの場合トータルコストは、自分で試行錯誤するよりワープしたほうが安く上がります。
トータルコストが高くついてしまっても、時間が無駄にかかってしまっても、泥沼にはまってしまってでも、自分で試行錯誤しながら改善したい人は、ぜひ試行錯誤してみることをお勧めします。
自分は、試行錯誤してみてとても楽しい経験ができたので、もう少し試行錯誤を続けてみます。
試行錯誤している間に、お金や時間が尽きてしまったら、そこであきらめてワープすれば良いと思います。
少しでも、試行錯誤してきているからワープした時のありがたみも、より理解できるかもしれません。
執筆:岐阜大学自動車部