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トランスミッションの役割と構造について

一般に私たちが乗る自動車には「トランスミッション」、つまり「変速機」が載っています。
自動車学校に入校する際に、AT車:オートマチックトランスミッションと、MT車:マニュアルトランスミッションの選択をする必要があったことを記憶しているでしょうか。

しかし、トランスミッションとは何なのか、どのような働きをするのか、なぜマニュアル車はあんなに面倒くさい操作が必要なのか等々、トランスミッションに関してよく分からないという方も多いことでしょう。
そこで今回はトランスミッション、特に構造の分かりやすいマニュアルトランスミッションに焦点を当てて説明します。

画像1:マニュアルトランスミッション搭載の車
画像1:マニュアルトランスミッション搭載の車

マニュアル車に搭載されるトランスミッションは、ミッションケースという箱の中にギアとシャフトが組み合わさり構成されます。
簡単に言えば、箱の中に歯車と棒がたくさん入っています。
このギアとシャフトの働きにより、自動車の動力源であるエンジンから伝わる動力のトルクと回転数、回転方向などを調整することができます。

これはガソリンで動く車において、欠かせない働きとなります。
一般に、ガソリンを燃やして動力を発生させるエンジンは、消費する燃料の量、発生させる力、燃料に対して得られる動力がエンジンの回転数によって変動します。
このような特性から、エンジンと駆動を直結することは非常に効率が悪く、車の重量によってはそもそも動くことすら困難でしょう。

もし、エンジンと駆動が直結されていた場合、つまりエンジンの回転数とタイヤの回転数が同じであったらどうなるでしょうか。車を発進させるときは、車を動かす上で最も大きな力が必要になります。

また、発進時のタイヤの回転数は目視でも分かる程度の回転数であるため、エンジンの回転数とタイヤの回転数が1対1だった場合、エンジンはとても低い回転数で非常に大きな力を発生させる必要があります。

マニュアル車に乗った経験のある方ならお分かりかと思いますが、アイドリングの回転数のままクラッチを繋ごうとするとほぼエンストします。
また、発進できたとしても、エンジンが低回転の状態で走行しようとするとノッキングと言う現象が起こり、エンジンの回転が不安定になります。
オートマ車においても、エンジンの回転数は常に数百回転以上に保たれていることはタコメーターを見れば分ります。

これらのことからも分かるように、一般的なエンジンは数百回転以下の低回転時には、自動車を動かすだけの動力を得ることができないのです。
ならば、エンジンの回転数とタイヤの回転数が1対1ではなく、100対1くらいなら大丈夫かという疑問も生まれるかもしれません。その場合、車を動かそうとする力は非常に大きくなりますが、エンジンの回転数に対してタイヤの回転数が低すぎます。

市販車のエンジンは、高回転まで回るエンジンを積んだ車でも精々毎分9000回転程までしかありませんが、エンジンの回転数とタイヤの回転数が100対1の場合、エンジンを限界まで回してもタイヤは一分間に90回転しか回りません。
タイヤの直径を60cmとしても分速170mくらいしか出ません。これでは走った方が速いくらいです。

ここまでの話を、自転車で置き換えてみると分かりやすいかもしれません。変速機のついていない自転車、つまり安いママチャリに乗った時のことを考えましょう。
走り出すときはすごく重たいですよね。

また、スピードが乗ってきて頑張って漕いでいるときのことを考えると、ペダルはたくさん回っているし自分もとても疲れるのに、変速機のついた自転車にはとてもかないません。この自転車の例を見ても、エンジンとタイヤの回転比が固定であるということがどれだけ非効率的あるかがよく分かります。

では、実際にまともに車を走らせるためにはどうしたらよいのかという問題が生まれます。その問題を解決してくれるのがトランスミッションです。
一般的なマニュアル車ではローギア(1速)~オーバートップギア(5速もしくは6速)にリバースギアを合わせた計6段階または7段階の変速を可能とします。
つまり、前進方向にはエンジンとタイヤの回転数の比を5段階か6段階に分けることができるのです。

少し話が逸れますが、教習車には5速まであるのに4速がトップギアと呼ばれることに疑問を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私も、自動車学校で初めて名称を聞いたときに不思議に思いました。
これは、エンジンと駆動側の回転比が1対1となることを一つの基準としていることによります。昔はエンジンと駆動の回転比が1対1となるギアが一番上のギアであり、トップギアでした。最も使う時間の長い一番上のギアの摩擦を減らすことで効率よく駆動に動力を伝達することが目的でした。
この機構を一番初めに導入したのはルノーであり、あらゆる自動車に幅広く用いられるようになりました。

そして、当時トップギアは4速であったため4速がトップギアと定着したようです。
その後、変速機の開発が進み、静粛性・環境性・経済性などの様々な観点から、高い速度での回転数を低く抑えるために、エンジンの回転数がタイヤの回転数より小さくなるようなギアの導入が考えられ、それをトップギアのさらに上のギアとして、オーバートップギアと呼ぶようになったのです。

現在では必ずしも4速がエンジンと駆動の直結になっているわけではありませんが、昔の名残で4速がトップギアと呼ばれています。
ちなみに、6速マニュアル車では、先ほど説明した4速の役割を5速が持ちます。そのため6速マニュアル車に関しては5速をオーバートップギアと呼ぶこともあるそうです。

ここで、話を戻しましょう。
現在のマニュアルトランスミッションの自動車は5速または6速まであるものが一般的であることは先ほど述べましたが、忘れてはいけない重要なギアが“リバースギア”です。
リバースギアは、唯一車体を後方に動かすために使われるギアです。

このギアがなければガソリンを燃料とした車は一方向にしか動くことはできないため、重要な部品と言えますが、構造はいたって単純です。
歯車を一つ多く取り付けるだけで、動力の回転方向が逆になります。
この一つ多く取り付けたギアをリバースギアと呼んでいるのです。

このようにして、車がバックするときはリバースギアを介してエンジンからの動力が駆動輪に伝わっていきます。
また、最近は電気自動車も増えてきましたが、電気自動車の動力はモーターであり、モーターは順回転方向でも逆回転方向でも同様な力が得られるため、リバースギアは搭載されていません。

ここまでトランスミッションについての説明をしてきましたが、実際にトランスミッションが車のどの部分にあるのか、どのような見た目をしているのか分からない方も多いと思いますので、実際のトランスミッションの写真を掲載しました。

画像2:シビックのエンジンルーム
画像2:シビックのエンジンルーム

画像2は、ホンダのシビックタイプRのEK9型のエンジンルームの写真です。写真右側に見える、ホンダのマークがついているものがエンジンです。
この車の駆動方式はFF(フロントエンジンフロントドライブ)と言って、車体の前方にエンジンが積んであり、前のタイヤ二つに駆動力が伝えられます。そのためトランスミッションも車体の前方に取り付けられています。

FR(フロントエンジンリアドライブ)の車の場合は、大体シフトレバーの真下あたりにトランスミッションがあります。
画像2の、エンジンの左に取り付けられているのがトランスミッションです。トランスミッションだけを車体から取り外してみると、画像3のような見た目をしています。

画像3:取り外したトランスミッション
画像3:取り外したトランスミッション

画像3の下側になっている方で、エンジンと繋がっています。
上側は車体の運転席側を向くように取り付けられます。
トランスミッションのケースは二つに分けることができ、開けてみると画像4のように中身を見ることができます。

画像4:シビックのトランスミッションの中身
画像4:シビックのトランスミッションの中身

トランスミッションの中には、画像4のように複数の歯車が入っています。
これを取り出したものが、画像5です。

画像5:トランスミッションを構成するギアとシャフト
画像5:トランスミッションを構成するギアとシャフト

画像5から分かるように、歯車はどれも噛み合っています。この方式を常時噛合式といって、現在のマニュアルトランスミッションの車では一般的です。そのため、すべての歯車に常に動力が伝達されています。

画像5で歯車を貫くように軸が通っているのが見えますが、これをシャフトと言います。
シャフトと歯車はニュートラルの状態では接続されていないため、歯車は空回りしている状態となります。ギアをどこかに入れたときには、シフトロッドがシフトフォークを動かすことでスリーブが動きます。一つのギアとシャフトを接続することで、歯車とシャフトの間で動力の伝達が行われます。

画像5で、細い3本の棒に接続された輪っかが歯車と歯車の間にいくつかあるのが見えると思います。これがスリーブであり、シフトレバーを動かすと細い棒を伝わってスリーブが動きます。

画像6:シフトフォークとスリーブ
画像6:シフトフォークとスリーブ

画像6は、画像5を反対側から見た画像です。
細い棒、シフトロッドを動かすとシフトフォークを伝わり、スリーブが動きます。

また、画像5をアップにした画像7には、歯車と歯車の間に幅の狭い金色の輪っかが見えます。
これはシンクロメッシュと呼ばれています。

画像7:シンクロメッシュ
画像7:シンクロメッシュ

この部品がないとマニュアルトランスミッションのシフトチェンジの操作が難しくなります。歯車とシャフトの回転差が大きいときに、スリーブを動かして歯車とシャフトを接続することが難しいためです。
そこで、シンクロメッシュによって歯車とシャフトの回転差を小さくしてギアを入れやすくします。

シンクロメッシュの原理は、摩擦によって徐々に回転差を小さくするというものです。
半クラッチのようなものだとイメージすれば分かりやすいかもしれません。シンクロメッシュは回転差をなくすという役割のために負担が大きく、長く車に乗っているとだんだん消耗してしまいます。

そのため、古い車ではギアが入りにくいという症状が起こってしまいます。もちろんシンクロメッシュだけでなく、他の各部品も消耗していくものであり、できるだけ長く車に乗りたいならば無理なシフト操作は控え、ミッションオイルもたまに交換してあげた方が良いです。

ここまでの説明で、トランスミッションについて大まかに理解していただけたでしょうか。今回はマニュアルトランスミッションについて説明しましたが、オートマ車にも様々な方式のトランスミッションが搭載されています。単純なようで奥が深いトランスミッションですが、これを機に詳しく調べてみてはどうでしょうか。
車の構造を知ることで運転操作への理解が深まり、より車を運転する楽しさを味わうことができるかもしれません。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。

(執筆:静岡大学自動車部)

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