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DIYの心得 ~固着との闘い~

皆さん、こんにちは。
名古屋大学体育会自動車部、4年の犬飼です。

皆さんは、クルマでどんなことをするのが好きですか?
ドライブするのが好き、愛車のフォルムが好き、モータースポーツがしたい、自分で機械をいじりたい。
人、それぞれだと思います。
でも、せっかくクルマ好きなら、自分で愛車の整備してみたいと思いませんか?

そこで今回は、クルマを自分で整備するとき、何が重要かお話しします。

自分で愛車を整備する喜び♪
自分で愛車を整備する喜び♪

皆さんは『DIY』という言葉を知っていますか?
Do it yourself. 
すなわち、専門としていない人が自分で作成したり修繕したりすることを指します。

クルマの整備に限らず、日曜大工や編み物だってDIYです。
そんなDIYの最もわかりやすい利点といえば、間違いなく“お金”でしょう。

一般の人なら、整備工場に任せることを自分で作業することで、工賃を節約することができます。
ただし業者に任せることとは違い、もし作業に失敗しても保証がありませんから、自己責任となってしまいます。

大切なクルマを壊さないように、最初は簡単な作業から始めて、できるだけ経験者に立ち会ってもらいましょう。

まずは、オイル交換のような、簡単な作業から始めてみましょう。
自分で整備するにあたって最初に行うことは、その作業が本当に必要なことか、何を修繕すべきなのかを確認することです。

まだ1000kmと走っていないのに、とりあえずエンジンオイルを交換してみよう…
アイドリングが、なんだか高いから、とりあえずセンサー抜いてみよう…
などといった“とりあえず”の判断はよくないです。
オイル交換なら前回から何km走ったか、レベルゲージは確認したか、オイルの色は汚れていないかなどの前もった確認が必要です。

クルマが不調だなと感じた時に何を確認すべきかですが、正直なことを言えばメーカー、車種、走行距離や年式によってもだいぶ変わってしまいますので、一概にこれに従えばいいというものはありません。

しかし、前確認を行う上で絶対に必要なものはあります。
それは“サービスマニュアル”と、呼ばれるものです。

 サービスマニュアルに記載された部品番号
サービスマニュアルに記載された部品番号

サービスマニュアルは、メーカーが車の生産と同時に必ず発行されます。
比較的年式の新しいクルマであれば、ディーラーや部品販売店でも取り寄せることができます。

すでに発行取りやめなどで、取り寄せができないものでも、時折ネットオークションなどに出品されている可能性があるので、根気よく探して手に入れておきましょう。

サービスマニュアルを手に入れたら、マニュアルの確認項目に従い必要な作業は何か確定させましょう。

作業を安全にするウマかけ
作業を安全にする“ウマかけ”

作業内容が確定したら、具体的に何をどんな手順でするのか、サービスマニュアルを熟読しましょう。

サービスマニュアルには、事細かに整備手順が記載されているので隅から隅までしっかり頭に入れてください。

整備内容を把握したら、必要な工具が何かを確定させます。
「~mmのボルトを外す」とあればそのサイズの眼鏡レンチが必要になりますし、車の下にもぐる必要があるならジャッキや馬は必須ですね。

また、交換するものによってはSSTと呼ばれる工具が必要になります。
SSTとはSpecial Service Toolの略称でいわゆる特殊工具というものです。
これは一般のホームセンターで販売されている工具とは異なり、特定の整備のみに対応した工具になります。
これがなくてもできる作業ももちろんありますが、たいていはSSTがあることで作業効率が大幅に向上します。

次に交換が必要な部品や消耗品を決めます。

オイル交換であれば、どの粘度のオイルを何リットル購入するべきか、決める必要があります。

センサー不良であれば、そのセンサーをディーラーや部品販売店で、取り寄せなければなりません。

商品の購入という点では、皆さん時間はさほどかからないのですが、ここでも注意しなければならないことがあります。

オイルやセンサーだけそのまま交換できれば話は早いですが、実際のところ交換するにあたってそれ以外にも外さなくてはならない部品がたくさんあるはずです。
そこで何が問題になるかというと、ボルト類を外すときに力のかけ方を誤ると、ボルトが変形してしまうことです。
うまく抜ければ問題ないですが、変形させてしまうと締め込む時に大変苦労します。
最悪の場合、元に戻せなくなることもあります。

また古い車の場合ですと、うまく引き抜いてもボルトがさびて締められないことが多いです。
このような事態を想定して作業する上で外さなくてはならない締結部品類もある程度先に購入しておくことが望ましいです。

ボルトをメガネレンチで緩める
ボルトをメガネレンチで緩める

さあ、準備は整いました!
あとは自分を信じて作業するだけです!

とは言いつつも、そう上手くはいかないのが現実です。
まず、部品を取り外す上で難所になりうるのが『固着』です。

国産の自動車は基本的に、メートル規格のボルト類を使っています。

重要なのは、
「自動車部品に使われるボルトのピッチは1.25mmである」
ということです。

世の中には多種多様な形状のボルト、ナットが出回っていますが、もっとも一般的なピッチは1.5mmです。
しかし、自動車は走行中に部品が脱離してしまう危険性があるので、より緩みにくいピッチが1.25mmの規格を使用しています。
この規格は走行上の安全性を保つために必須でありますが、部品を外す上ではかなりの難敵です。

高い締め付けトルクを維持し、がっちりと噛み込んでいるのでなかなか外れません。
さらには古い車となるとボルトがさびで固着してしまい、抜き取るのにかなりの力が必要になります。

そこで、このように硬く締まったボルトを外す良い手段をお伝えします。

色々な種類のハンマー
色々な種類のハンマー

エクステンションな、鉄パイプ
エクステンションな、鉄パイプ

まず一つ目は“ハンマー”です。 眼鏡レンチに、いくら力を込めてもボルトが外れないときは、ボルトが外れる向きにハンマーでレンチを叩いてみましょう。
固着は元来衝撃に弱いのでハンマーの衝撃で一度固着が解けてしまえばするすると抜けてきます。

ただし叩くときは、ハンマーを握っていないもう一方の手でレンチをしっかり押さえておきましょう。
うっかり支える側の手を滑らせてしまうと、ボルトの頭をなめてしまいます。

二つ目は“エクステンション”です。

ちょっと、かっこいい風な名前ですが、真名を言うと“鉄パイプ”です。
レンチの柄の部分に鉄パイプをひっかけて全体を長くすることで、てこの原理を利用してボルトを回すことができます。

これは、なかなか使える手段です。
しかし、パイプを入れるだけの空間がないとできないので、周りの物に注意しましょう。

次に三つ目です。
これはリッチな方に、お勧めな“インパクト”です。

エア式のインパクトレンチ
エア式のインパクトレンチ

コード電気式のインパクトレンチ
コード電気式のインパクトレンチ

インパクトにもいろいろな種類があります。
基本構造は同じで内蔵されたハンマーが、レンチを回転させ固着したボルトも自動で抜き取ってくれます。

大まかに分けると二種類で電動式とエア式があります。
電動式はその名の通りで、コンセントにつなぐタイプと付属のバッテリーを利用するタイプがありますが、どちらも安定した電圧から出力されるため、レンチのトルク変動が少ないのが特徴です。

ただし絶対的なパワーはあまり大きいものがなく、出力的に問題ないのはマキタや日立ぐらいでしょう。

エア式は、レンチとは別にコンプレッサーにエアを充填させ、そのエアをレンチに内蔵したハンマーに吐き出すことで回転トルクを得ています。

エア式は電動式と異なり、コンプレッサーの容量や馬力にトルクが左右されやすい半面、上手く使えばかなりの高トルクを得ることができます。
ちなみにエア式だと、空研のものがダントツだというのが僕の印象です。
インパクトレンチの仕事率はかなりのものですが、何より高いです。

一度きりしかしないような作業なら整備工場へ持ち込んだ方が安上がりだったりします。

ちなみに余談ですが手動式のインパクトなるものが存在します。

インパクトドライバー
インパクトドライバー

カセットガス式のバーナー
カセットガス式のバーナー

一般にはインパクトドライバーという名前で販売されているのですが、これがなかなかの優れものです。
見た目は大型のドライバーのような形ですが、お尻の部分をハンマーで叩くことでボルトに張り付く方向に力をかけながら、ハンマーの衝撃でレンチが回転します。

金欠でDIYをする人にはかなりお勧めで、先端をドライバーに変えることもできるのでボルトやナット、多様なネジにも対応します。

四つ目ですが、加熱するという方法があります。

これは金属の熱膨張を利用したもので、必ず雌ねじ側に対して行います。
また、ネジロック材で、固定してあるナットなども加熱することでネジロック材を溶かし、固着を解くことができます。
加熱の方法は、ホームセンターなどで販売されているバーナーで十分です。
注意点ですがDIYで整備される方は、パーツクリーナーを多用すると思いますが、近くに置くと気化したガスに引火するので周りに気を使いましょう。
五つ目に、加熱の逆で冷却という手段があります。

加熱の話の逆で、雄ネジ側を冷却して収縮させて抜き取ります。
低温での一番の利点は、金属が収縮することではありません。
固着の原因である、錆(サビ)は低温域で組織が崩壊して割れます。
錆が割れると、固着が解けるのでボルトをうまく抜き取ることができます。

冷却スプレー
冷却スプレー

「なめて」しまったボルト
「なめて」しまったボルト

以上でお話したのはボルトやナットが“なめていない”時の話です。
レンチの力のかけ方を間違えると頭をなめてしまうことがあります。

“なめる”とは、ボルトの頭がつぶれた状態のことをいいます。
そうなると、普通のレンチやソケットでは対応できません。
なぜなら、ボルトの頭がつぶれていると、ボルト滑って回りません。
ボルトの角が多少なめてしまったときは“面接触ソケット”に頼りましょう。

面接触ソケット
面接触ソケット

これはナットの角ではなく、角の部分に応力をかけることで回転させます。お金に余裕がある方は、最初からすべてこのソケットで作業すれば、なめることはないでしょう。

ナットツイスター
ナットツイスター

ボルトツイスター
ボルトツイスター

頭が完全になめてしまった時には“ナットツイスター”を、利用してみてください。
これはソケットの歯がスパイク構造になっていて、外す向きに回すほどボルトにソケットが噛み込み外すことができます。

ただし一度でもナットツイスターを使ったボルトは、再利用できなくなるので注意が必要です。
また、ナットツイスターはインパクトに対応したものもあります。
ナットが、どうしても固着して回せない場合は、やってみる価値はあります。

頭がなめた程度ならまだましですが、中にはさびて頭が取れることがあります。
この場合は“ボルトツイスター”を使いましょう。

これはボルトに下穴をあけ、逆向きに歯がついたソケットを差し込むことで、頭が取れたボルトも引き抜けるものです。
メーカーによって形状や名前が若干異なりますが、“エキストラクター”と基本的には同じ原理です。
ただ、こちらの方がボルトに直接ソケットをはめ込む形になるので、ハンドルなどを装備するとより力をかけやすくなります。

ボルトツイスター
ボルトツイスター

以上が固着してしまった時の解決方法になります。
ここまでやらなくてもできることもあれば、これだけやっても手の打ちようがないこともあります。
どうしても無理そうな作業は、迷わず整備工場にお願いしましょう。

ところで、外すのはできたから問題ないでしょ?
というわけにもいかないのが、自動車整備です。

外した後は元に戻さなくてはなりません。
元に戻す上で最も大事なのは、“締め付けトルク”です。
締め付けトルクは、締結部品固有の数値がサービスマニュアルに記載されています。
元に戻す時には、トルクレンチできっちり締め込んでいきましょう。

新しい部品を車に装着するとき、まずは緩めの力でボルト類を仮締めし、部品周りのクリアランスが保たれていることを確認してからトルクレンチで本締めしてください。
ホイールナットのように円形に並んだものは、対角線上に徐々に締め込んでいき、最後にトルクレンチで本締めをしましょう。

これで大好きな愛車も元気に!と言いたいところではありますが、まだ仕上げが残っています。

元に戻した状態で普段通り運転しながら数日過ごし、一週間後くらいでいいので「増し締め」を行ってください。
締め忘れや、緩んでしまった部分があるかもしれません。

どうだったでしょうか?
『DIY』やれそうでしょうか?

確かに中には時間や根性のいる整備もあります。
しかし、面倒くさがらず自分でやることで、愛車への愛が増すというものではないでしょうか?

皆さんのカーライフに、少しでもお役に立てれば光栄です。

(執筆:名古屋大学体育会自動車部)

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