こんにちは。北海道大学自動車部です。 今回のコラムでは「ターボチャージャー」についてお話します。
僕たち自動車部員にとって“ターボ”というものはなじみの深いものです。 車にあまり詳しくなくても「ダウンサイジングターボ」といった言葉をテレビCM等で聞いたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実はダウンサイジングターボと、僕たち自動車部が普段乗っているようなスポーツカーに搭載されているターボは、同じものに見えて実は考え方が少し異なっているものなのです。 そのような点も含めて、このコラムでご説明します。
まず「ターボチャージャー」とはなんなのかを簡単に説明します。
ターボチャージャーとは「排気タービン式過給機」とも呼ばれ、エンジンに圧縮した空気を送り込むことでそのエンジンの排気量以上のパワーを得ることができるというものです。
エンジン内部のシリンダと呼ばれる円筒状の筒内をピストンが往復運動することによって燃料の熱エネルギーを回転運動へと変換することで自動車などの動力となっています。
仮にシリンダ容積である排気量が一定とすると、エンジンの出力向上のために考えられる方法は2つあります。
ひとつはエンジンの回転速度をあげることです。 しかしエンジン回転速度を速めると、振動や騒音が増すことや燃費の悪化を伴います。もちろん、エンジン機械性能以上には回転速度は上昇しないため、この方法には限界があります。
もうひとつは、エンジンの回転速度は固定したまま1サイクルあたりの投入燃料の量を増やす方法です。 その場合、燃料を燃やすためには空気が必要になるわけですが、投入燃料を増やすとそれに見合う空気質量が自然吸気では満たせなくなってしまいます。 そこで過給手段を用いてシリンダ内へ十分な空気を送り込んで投入燃料を増やしてあげようというのが“ターボ”の考え方で、ここで用いている過給手段というのがターボチャージャーという訳です。
他の過給機として、スーパーチャージャーと呼ばれる機械式過給機もありますが、それについてはあとで説明させていただきます。
ターボチャージャーが、どのような仕組みでより多くの空気をエンジンへと供給しているのか? その仕組みについて説明します。
車のエンジンはガソリンを燃焼させることで動力を得て、排気工程で排気ガスを放出します。 ターボチャージャーは、その排気ガスをマフラーから排出する前にタービンという羽根に送り込むことでコンプレッサーを回し、それによって空気を圧縮します。
沢山の燃料を燃やすのに必要な酸素を、廃棄されるはずの排気ガスの運動エネルギーを回収する形でコンプレッサーを動かしているため効率よく出力を得ることができる、というのがターボチャージャーの特徴です。
しかし一方で、空気は圧縮されると温度が上昇します。 高温のままの空気をエンジンに送るとノッキングを起こしてしまったり、出力低下や燃費の悪化を招いてしまったりします。
そのため、ターボチャージャーで圧縮された空気はインタークーラーと呼ばれる冷却装置に送られ冷やしてからエンジンへと送られます。 インタークーラーはエンジン上部や車の前部に設置することが多く、またインタークーラー自体を冷やすためにボンネットに“エアインテーク”が設けられている車もあります。
次に、ダウンサイジングターボについて説明します。 冒頭で触れたスポーツカー等に搭載されているターボとダウンサイジングターボの考え方の違いというのは、端的に言うと 「より大きな出力のため」か、 「足りないものを補うため」 の、違いになります。
どういうことかというと、スポーツカー等では高排気量でパワーのあるエンジンをさらに出力を大きくしたいという目的でターボチャージャーを搭載します。 それに対してダウンサイジングターボでは、排気量をより小さくするためにターボチャージャーを搭載します。
つまり、排気量を小さくすることによって燃費を向上させつつ、加速時のパワー不足をターボチャージャーで出力を補って、運転者のストレスを減らしているのです。 それによって、巡航時は小排気量なので燃費が良く、加速時はターボが効き大排気量エンジンに劣らない加速が得られるようになります。
ただ、加速時に関してはターボが効いてしまうため燃費は悪くなってしまいます。 この方法を用いた車は欧州で多く生産されています。 それには理由があり、欧州は渋滞地域が少なく巡航走行が多いという交通環境になっているため、ダウンサイジングターボの巡航時燃費と巡航に至るまでの加速性能が必要とされているのでしょう。
こと日本においては、信号や渋滞によるストップ&ゴーや道の狭さ、走行速度域の低さから、巡航時燃費よりも加速時燃費の良さが重視される傾向にあります。 そこがネックとなって、まだ流行には至っていないという現状です。 最近、流行の軽自動車の一部のみダウンジングターボ搭載車がある程度ですからね。
ターボチャージャーのメリットとデメリットをいくつか紹介します。 まずメリットは何と言っても“出力の向上”です。
ターボチャージャー自体の重量はエンジン重量の数%程度ですが、その程度の重量増で数十パーセントの出力の向上が得られます。 モータースポーツにおいては、簡単に言ってしまえば速いほうが良いに決まっているわけです。
もちろん街乗りなどにおいても軽快に加速できるに越したことはないわけで、ターボはそういった点でメリットとなります。 加えてブーストコントローラーの取り付けやタービン、インタークーラーの交換によって、よりブーストアップすることも可能です。
また、ターボ車に乗ったことのある人には感じたことがあるでしょうが、ターボ車には独特の加速感があり、それはNA(自然吸気)では感じられないものとなります。 それに加えてタービンの吸気音や排気音も独特なものとなるので、パワーアップはもちろんですが走りに関係のない点に魅力を感じている人も多くいるのです。
デメリットとしては、ターボが効いている間の燃費の低下が挙げられます。
前述では、ターボチャージャーによって空気を圧縮し、空気と燃料の混合比を濃くして燃焼する燃料量を増やすという説明をしました。 それとは別に、ターボが効いているとき燃料は、空気量に対して大目に噴射されています。
ターボエンジンでは空気を圧縮しより多くの燃料を燃やそうとするために、NAエンジンに比べてより多くの熱量が発生します。 そしてそのままではエンジン各部がその熱に耐えられず溶けてしまいます。それを防止するために、燃料を多めに噴射することによって、余った燃料を気化潜熱や最高燃焼温度の低下に利用してエンジンの冷却を促進しているのです。 これを燃料冷却と呼びます。 そのためNAエンジンよりも空燃比を濃くしなくてはならないため燃費が低下してしまいます。
ほかにもデメリットとして、急加速初期の段階で出力応答性が低いということがあります。 アクセルを踏み込んでもすぐにターボが効かず、ワンテンポ遅れて効いてくるという現象が起こるのです。 この現象は“ターボラグ”と呼ばれます。 排気ガスによってタービンを回しているため、アクセルを踏み込んでから排気エネルギー増加し十分に空気を圧縮できるまでタービンの回転数が上昇するまでに遅延が生じてしまうわけです。
そのほかにも、部品が増えることで壊れる確率が上がってしまったり、運転前の暖気、運転後のアイドリングが必要などのデメリットが存在したりします。
さて、気付けばデメリットのほうばかりを詳しく説明してしまいましたが、メリットのほうはそれらのデメリットを超える魅力を十分に持っているわけです。
ターボチャージャーについて説明してきましたが、「スーパーチャージャー」という過給器もあります。
スーパーチャージャーは「機械式過給機」とも呼ばれます。 ターボチャージャーが排気エネルギーを利用して過給をしていたのに対して、スーパーチャージャーはエンジンの動力をベルトなどで過給機に伝えその動力でコンプレッサーを作動させます。 エンジンの動力で作動するためターボチャージャーのように排気圧が上がるのを待つ必要がなく、エンジンの回転数の上昇と同時に過給圧を挙げることができるのでターボラグが発生せず、低回転域から作動させることができるという特徴があります。
しかし、排気ガスという本来捨てるものを利用してコンプレッサーを回しているターボチャージャーに比べて、エンジンの動力を一部利用するという形で動作するため、それが機械的負荷を生じさせパワーロスとなり効率の面では劣ります。 しかも高回転になるほどその負荷は大きくなります。
近年では、低回転域ではスーパーチャージャー、高回転域ではターボチャージャーをしようするというツインチャージャーという方式も生まれています。
この方式では、低回転域ではスーパーチャージャーを用いて過給を行い、ターボチャージャーが駆動を開始したら二つのチャージャーで過給し、高回転域ではスーパーチャージャーの駆動を切りターボチャージャーのみを使用するという手法をとっています。
それによってすべての回転域で効率よく過給を行い高出力を得られるというわけです。 しかし、高回転域においてスーパーチャージャーの駆動を切る機構が複雑となる点や、二つの過給機を積むことによる重量増、コスト増という欠点もあります。
今回はターボチャージャーの概要的な部分を紹介させていただきました。 特徴や仕組みについて少しでもわかっていただけたならうれしいです。
最後にもう一度だけお伝えしたいのは、 ターボ車は、乗ってはじめてわかる魅力 が、存在しているという点です。
もし試乗する機会がありましたら、存分にターボを効かせて加速感と独特な音などを感じてみてください。
僕たち北海道大学自動車部は部活動として自動車競技に取り組んでいます。 今回は競技についてのコラムではありませんでしたが、もしお時間ありましたら競技に関するコラムも読んでいただいて自動車や自動車競技に興味を持っていただけましたら幸いです。
(執筆:北海道大学自動車部)