初めまして。横浜国立大学フォーミュラプロジェクト(YNFP)で2018年度と2019年度の2年間、パワートレイン班リーダーを務めました福田です。
今回は、弊チーム車両におけるフルコンECUの活用方法やセッティングについて、ちょこっとご紹介します。
また、紹介させていただくセッティング方法は、YNFPで有効だと自分が判断した方法です。
自己流なセッティングの進め方をしている部分が、多々あるためくれぐれも真似をしないようにお願いいたします。
このコラムを読んだ、他大学の学生フォーミュラのチームの方も(居るか分かりませんが)自己責任で試験していただくようお願い致します。
そもそもECUとは、以下の略です。
・エンジン(Engine)
・コントロール(Control)
・ユニット(Unit)
エンジンの三大要素である「良い混合気」「良い圧縮」「良い点火」のうちの「良い混合気」「良い点火」をコントロールするためのものです。
最近の自動車やバイクの殆どは環境保護の基準などから、フューエルインジェクション(FI)車両が主流となっており、そのような車両には必ずECUが付いていて燃料噴射や点火を制御しています。
吸気工程によって発生する負圧を利用して燃料供給を行うキャブレターの車両と違い、外部の気温やエンジンの状態、スロットル開度をリアルタイムで反映させることによって、より繊細な点火や燃料供給を行えます。
スポーツカーやバイクのチューニングにあるECU書き換えやサブコンの搭載、フルコンへの変更などは混合気や点火の最適化を行うことで出力の向上、操作への反応速度の高速化などを狙って行われるチューニングです。
弊チームでも2018年度車両であるYNFP-18からECUを、株式会社エッチ・ケー・エス様から支援いただいている自動車用汎用フルコンの「F-con V pro」を使用し続けています。
このECUを用いて燃料噴射量、点火タイミングのマッピングを行いながら、A/F、水温、油温、油圧、ノッキング、スロットル開度などをロギングしながら走行をして、セッティングを進めています。
エンジンの燃料噴出量制御の方法には複数の種類があり、その中でもYNFP-19は複数ある空気量検出方法の中から間接的検出方法の1つである「スロットルスピード方式」を採用しています。
1サイクル当たりの吸入空気量をスロットル開度とエンジン回転数から間接的に求めて、それに見合うだけの燃料を噴出する方式です。
間接的検出方法のもう1つで、吸気管の負圧とエンジン回転数から吸入空気量を求める「スピードデンシティ方式」より吸入空気量の検出精度は劣りますが、過渡状態での空気量検出精度に優れており、高出力な中でも最大限の扱いやすさを得ることを目的に「スロットルスピード方式」を採用しています。
ECUでスロットルセンサとカム、クランクセンサからそれぞれスロットル開度とエンジン回転数の情報を受信して燃料マップや、点火マップで決められた通りにインジェクターと点火プラグを動かしてエンジンを回しています。
これらの基本的なエンジン制御のほかにもエンジンの水温からエンジン内部の温度を把握して燃料噴出量を調整する水温補正や、ドライバーのスロットル操作の速度に反応して燃料噴出量を調整する加速補正、減速補正などもあります。
一般車では当たり前となっている吸気温補正については、チューブラースペースフレームでエンジンルームの熱害を吸気が受けないこと、学生フォーミュラ大会が毎年9月上旬に開催されることからほとんど使っていません。
レーシングカーを開発するうえで、出力はいつでも大きければ大きいほど良いものです。
できるだけ多くの空気をシリンダーの中に取り入れて、それに見合うだけのガソリンをインジェクターから噴射し、適切なタイミングで点火することが高出力化のセッティングのセオリーです。
パワートレインを開発するにあたって難しいのは、狙った回転数で多くの空気を取り入れることができる吸排気やカムシャフトの開発であり、その後のECUセッティングはECUから得られるA/F (空燃比:Air / fuel ratio)やノッキングをもとに燃料噴射量と点火時期を調整する作業であり、エンジニアや車両の目標によって何を目指しているかによって差はあります。
しかし、ある程度答えの出ている作業であると考えております。
作業の手順としては、車両をシャシーダイナモと呼ばれる出力測定機器に固定して、100%開度での燃料噴出量を調整していきます。
100%開度で使用回転数域内、1000rpmぐらいずつエンジン回転数を上げながら、
「燃料噴出量を調整→パワーチェック→発生トルク、A/Fの数字から再度燃料を調節」を繰り返していき、目標とするA/Fに近づけていきます。
ある程度燃料噴出量を調整できたら、ノッキングに注意しつつ点火時期を早めて発生トルクとA/Fをチェックしていきます。
点火時期を調整して、目標のA/Fからずれたらまた燃料噴出量の調整に戻ります。
100%の時は基本的に、出力空燃比であるA/F=12.5を目標に設定していきますが実際にA/F=12.5の時に最大のトルクが出るとは限りません。
なので、同時にダイナモで読み取れる発生トルクを逐次チェックしながら調整していきます。
これらの調整を開度60%、開度30%でも同様に、発生トルクをチェックしながら目標A/Fに近づくように調整していきます。
その後、データやメモから実際に測定することができなかった範囲を計算などで予測補完をしながらマップを作っていきます。
その後は実走行から得られるデータやインプレッションで、微調整を行っていくことで高出力なパワートレインに仕上げていきます。
学生フォーミュラが、通常のレースやモータースポーツと違う点の一つとして“燃料消費量が少ない”ほど高得点が取れる「効率」という競技があります。
この競技がある以上、先ほど述べたやみくもに高出力化をすればいいというものでもありません。
710cc以下のレシプロエンジンならNA、ターボ、スーパーチャージャーと、なんでもありの学生フォーミュラでは、どの競技でどのように点数を稼いでいくかがチームごとの重要な戦略となっています。
日本のチームでは二輪用エンジンを採用する大学がほとんどで、その中では600cc4気筒エンジンと450cc単気筒エンジンが大多数を占めていて、少数ですが690cc単気筒や650cc~700ccの2気筒エンジン等を採用しているチームもあります。
YNFP-19に搭載されているCBR-600RRのエンジン(600cc4気筒エンジン)は高回転、高出力型のエンジンであるため「効率」においては、これらのラインナップのなかで一番不利なエンジンです。
端的に言えば、「燃費と引き換えに出力を得られるエンジン」というわけです。
しかしながら、ストレートエンドでの減速区間や車速維持のためのパーシャルスロットル中、車両待機中のアイドリング時などエンジンは常に高出力を発揮しているわけではないですよね。
そういった部分の燃料マップや点火マップを見直したり、エンジンの冷却性能を強化して燃料冷却を行わないようにすることで、走行中の燃料消費量を減らすことができます。
また、加速区間での燃料噴出量を減らしていくと、当然タイムが落ちます。
その時にトータルで何秒タイムが落ちて、何リットルの燃料が節約できるかを考えていけばチームの総合得点を最大化することの手助けにもなります。
先ほどレーシングカーは「出力が大きければ大きいほどいい」と述べましたが、そこには様々な障害があります。
一つめには、先ほど述べた“燃料消費量”があります。
二つめには、“扱いやすさ”というファクターがあります。
どんなに高出力だったとしても、コーナーの立ち上がりでアクセルが踏めないとストレートスピードは伸ばせずラップタイムは縮まりません。
また、細かいアクセル操作がきちんとエンジン出力反映されないと、コーナリング中の車両を安定させることができずに旋回性能にも大きく関わります。
しかしながら、パワートレインの高出力化を進めていくとスロットルの開き始めでのトルクの立ち上がり方が過激になったり、エンジンがハンチングを起こしたりしてドライバーにとって扱い辛いパワートレインになってしまうケースが多々あります。
YNFP-18よりも高出力なパワートレインを目指したYNFP-19についても、上記のような症状がシーズン序盤では出ており、ドライバーのコントロール性に悪影響を及ぼしていました。
これらの症状を解決するためには、スロットル低開度時の吸入空気量を制限する必要があるためスロットルボディやスロットルペダルの再設計が必要になります。
しかし、チームのリソースや大会までの残り時間を考慮すると、機械的なアプローチからトラブルを解決するのは難しいと判断しました。
そこで、自分はECUの燃料マッピングで解決する手法を取りました。
エンジンの出力を向上するために吸入空気量を増やしたことによって出力が出すぎているのであれば、吸入空気量に見合わない燃料を送り希薄燃焼をさせることで、出力を意図的に絞りコントロール性を上げられると考えました。
それまではA/F基準ですべてのスロットル開度の燃料マップを調整していましたが、低開度域の燃料をドライバーのコントロール性に対してのコメントを基準に設定しなおしました。
当然ながらA/Fは理論空燃比の14.7以上にはなりますがログデータなどからエンジンが正常に回っていることを確認しながらテストを続けていました。
自分の予想は当たり、燃料を絞ることでコーナリング中や加速し始めのコントロール性は格段に上がり、1周約60秒の大会コースで1.5秒ものタイム短縮をすることができました。
それほどまでに、ドライバーにとってのコントロール性というものがパワートレインを開発していくにあたって重要であると認識したと同時に、ECUセッティングひとつでコントロール性が大幅に改善されるということを実感しました。
初めにも書きましたが、今回紹介させていただいたECUセッティングの手法は多々セオリーから外れていたり、エンジンに悪影響を及ぼす可能性のある手法を使っています。
また自分自身がエンジンについて勉強途中の身でもありますので、このコラムの中にはもしかしたら自分が正解だと信じているだけの、不正解が書かれている可能性もあります。
ですので、決してこのコラムな内容は参考になさらずに、乗用車のチューニング等は知識や経験のあるチューニングショップの方と話し合いながら進めていただくのが良いでしょう。
また、他大学の学生フォーミュラチームの方につきましても、使用するエンジンやECU、車両の状況によってセッティングの手法は変わる可能性があるので自己責任で安全に留意しながら試験を行っていただければと幸いです。
以上、拙い文章でしたがお読みいただき、ありがとうございました。
執筆:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト YNFP-19パワートレイン班リーダー 福田 祥多郎