エアバック作動した事故車
ステアリングSRSと、カーテンSRS
廃車を解体する際に、自動車リサイクル法に基づく適正な処理が必要になるものの中にエアバッグ(SRSエアバッグ)があります。エアバッグは、万が一事故を起こしてしまった時に、ドライバーの生命を守る安全保護の目的を持った装置ですが、ドライバーにとっては事故を起こさないという意味で、一度も作動しないことに越したことはありませんね。現在、エアバッグは自動車を運転する方なら知らない人はいないほど周知されており、実際に日本ではシートベルトの補助の役割としてほぼ100%(一部の商用自動車を除く)の自動車に装着されています。
実は、エアバッグの歴史を見てみると、意外にもそんなに古いものではなく、日本の自家用車に装備され始めたのは1980年代の後半、本格的に普及するようになったのは1990年代からのことでした。エアバッグは主に運転席や助手席のフロントに装備されていますが、これは事故時に特に影響の大きい正面からの衝突から身を守るためです。最近はその他にも、「カーテンエアバッグ」や「サイドエアバッグ」と呼ばれる側面からの衝突から身を守るエアバッグも登場し、装備が可能な車種も年々増えてきています。しかし、前途したように、エアバッグの目的はあくまでもシートベルトの補助であり、それだけで事故から命を守るという役割を担っているわけではありませんので、双方を併用してはじめて、十分な効果を発揮するものだということを忘れてはいけません。SRS車上展開
エアバッグ一括作動処理ツール
機械式SRSインフレーター取外し後
機械式エアバックのインフレーター
そんなエアバッグの適正処理ですが、タイプによって大きく2種類の方法にわけられています。
1つは「機械式」と呼ばれるタイプのエアバッグで、年式の古い自動車のほとんどはこのタイプが装着されています。このタイプの場合、自動車の車体からエアバッグを取り外して処理しなければなりません。ここで問題が懸念されることは、取り外しの際の「見過ごし」です。1台の自動車に装備されるエアバッグの数は年々増えてきており、シートベルト・プリテンショナーやシートクッションなどを含めると、10個以上のエアバッグが搭載されている自動車もあります。それらの場所を全て把握し、安全かつ適正に取り外す作業には相応の知識と技術が必要不可欠になります。安全に取り外したエアバッグは自動車再資源化協力機構と契約した指定引取り場所に専用ケースに入れて提出し、そこで適正に処理されます。
もう1つ、「電気式」というタイプのエアバッグがありますが、こちらは車上作動処理、つまり車の中に装着した状態での処理が可能です。こちらの処理作業は「エアバッグ一括作動処理ツール」という装置を使うことで、ボタンひとつでエアバッグの一括展開が可能となっています。展開とはエアバッグが作動することですが、車体から取り外すことなく搭載されている全てのエアバッグが解体現場で適正に処理できるため、取り外し方法と違い見逃しも無く効率と安全性が高い方法となっています。問題は車種によりエアバックを作動させる一括作動ツールの接続をするSRSコンピューターの位置がバラバラなのでカプラーの位置を把握する事が大変な事です。
しかしここ近年、新しいISO規格の制定が通り、OBD(On-board diagnostics)ダイアグと呼ばれる自動車コンピューターが行う自己故障診断の為の接続先であるデータリンクコネクター経由での一括作動が可能になるようになります。国内産の自動車はすべてその規格に準じたエアバックを搭載することが決定したため、今後、新しく販売される自動車の電気式のエアバッグの適正処理の安全と作業効率はかなり上がることが予想されています。
ちなみに、海外メーカーの輸入車も、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、フォルクスワーゲン、ベントレーなど日本でも聞き馴染みのあるブランドメーカが対応しています。