こんにちは!今回のコラムは、皆さんが疑問に感じているであろう、車に使われている連なったアルファベットについて、書いていこうと思います。クルマの名前や、グレード名を見ていると、「GT」「RS」「S」「R」など、決まったアルファベットがしばしば使われているのに、気が付くのではないでしょうか?クルマ好きの人なら思わず「ビビビ」と、反応してしまうと思います。
それらのアルファベットの数々ですが、果たしてそれらには一体どんな意味が込められているのか皆さん知っていますか?「なんか速そうだから?」「かっこいいから?」そんな単純な理由なのでしょうか?アルファベットの意味が分かれば、きっとそのクルマのコンセプトや、キャラクターが見えてくるはずです。
そこで、このコラムではクルマの名前や、グレードでよく目にするアルファベットに込められた意味について、紹介していきたいと思います!
まずは、一般的によく見かけるであろう「RS」についてみていきましょう。「RS」というのは、主にスポーティーな走りを意識したクルマに、広く付けられる名称であり、“Racing Sports”(レーシング・スポーツ)の頭文字をとって「RS」としたものが一般的です。
こうしたクルマは、今ではめっきり減ってしまった、マニュアルトランスミッションの設定があったり、固めのサスペンションセッティングになっていたりします。また、専用のエアロパーツが装備されていることが多く、走りのベクトルがスポーツ走行に向けられているものが、多いのが特徴的です。
しかし、ただ一口に「RS」とは言っても、その意味はメーカーや車種によって大きく異なっているのをご存知でしょうか?例えば…
トヨタで用いられている「RS」は、“Runabout Sports”(ランナバウト・スポーツ)の略となります。ここででてくる「ランナバウト」というのは、クルマのボディ形状を表すもので、小型のスポーツカーを指しています。キビキビと快活に走り回るイメージといったところでしょうか。
ちなみに、同じくトヨタの「MR2」も、“Midship Runabout 2seater”(ミドシップ・ランナバウト・2シーター)の略でありました。どうやらトヨタは、ランナバウトという表現がお好きなようです。
ホンダで使われている「RS」の名称は、“Road Sailing”(ロード・セーリング)の略称です。“Sailing”(セーリング)とはすなわち「航海」のこと。道の上をまるで、ヨットのように悠々と進んでいくという意味を、感じ取ることができますね。なんだかとっても優雅です。
しかし、勘がいい方はここであることに気づくのではないでしょうか?「あれ?なんかスポーティーな感じとは程遠い気が…。」と。そうです。今まで述べてきた「RS」と比べると、ホンダが使っている「RS」の意味は、どこかスポーティーなイメージとはかけ離れているのです。
というのも、かつてスポーツグレードのクルマが流行していたころは、交通事故の増加やオイルショック、排ガス規制などで、スポーツグレードへの風当たりが強かったからだと言われています。そんな時代背景の中、やれ「レーシングだ!」「スポーツだ!」などと言っていては国から認可を受けるのは困難だったかもしれませんからね。
それでも「RS」をつけようとするホンダの精神には感動します。「RS」には苦労の歴史があったわけです。
ポルシェをはじめとした、欧州車で使われている「RS」は、“RennSport”(レンシュポルト)の略称であります。これは、ドイツ語で「純粋なレーシング」という意味です。「レーシング」と銘打つだけあって、最先端のテクノロジー・超が付くほどの軽量化・大型のエアロパーツなど、「公道のレーシングカー」と表現するのが最も妥当だと思わせるほどの、圧倒的なパフォーマンスを持ち合わせています。
スポーティーを意識した、単なるグレード名に過ぎなかった日本の「RS」ですが、欧州においては、「RS」を冠されたクルマは、まったく別のクルマに変わってしまうようです。国によっての、捉え方の違いがうかがえて、非常に興味深いですね。
このように、「RS」というのは、メーカーや国によって違いこそありますが、スポーティーな走りを意識した呼び名で、間違いはないようです。
さてさて、お次はスバル車に乗っている方はもちろんのこと、きっと多くの方が耳にしたことや目にしたことがあると思います。「WRX」そして、「STI」について解説していきましょう。今述べたように、これら2つの呼称は、スバルで販売されているクルマに用いられているものです。
水平対向エンジンを搭載したクルマを多く販売するなど、走りのパフォーマンスやドライビングへのこだわりが強い印象のスバルですから、この2つの呼称にはどのような意味があるのか殊更気になるところです。
まず、「WRX」という名称は、WRC(世界ラリー選手権)の「WR」と、スバルがかつて販売していたレオーネというクルマのスポーツグレードで、採用されていた呼称である「RX」を掛け合わせて、造られたと言われています。つまり、何かの略称というわけではなく、造語であったということですね。
この「WRX」ですが、レガシーの下位モデルとして位置づけられている、インプレッサのスポーツグレードとして登場しました。そのWRXを冠された「インプレッサWRX」は、WRC(世界ラリー選手権)への参戦を見据えて高性能が与えられています。登場した当時は、2.0Lターボ(240PS)という大出力エンジンを搭載して販売されていました。しかも、これほどのWRC向けの高性能車が、限定ではなく量産されていたというからさらに驚きです。
2014年からは、インプレッサの内のハイパフォーマンスグレードが新たに、WRXという車種名で独立し、販売されています。
※「世界ラリー選手権」(WRC)とは、公道や競技場に設けられたスペシャルステージと呼ばれるコースをハイスピードで駆け抜ける過酷なレースです。総走行距離は1000から2000キロといわれています。これまで世界各地で開催されており、ここ日本でも開催された過去があります。最近ではトヨタも参戦し、盛り上がりを見せています。
※「スバルレオーネ」とは1970年代から1980年代にかけて、スバル車の中心的な位置づけとして販売されていた車種で、一般的な乗用車としては初めて4WD車をラインナップした車種としても知られています。今の「スバルといえば4WD(AWD)」というイメージを作り上げました。ちなみに「レオーネ」とは、イタリア語でオスのライオンの意味で、転じて勇者を表しています。
「STI」とは「SUBARU TECNICA INTERNATIONAL」(スバル・テクニカ・インターナショナル)の略称です。スバルの連結子会社で、モータースポーツへの参画やパーツ開発・販売などを行う会社です。要するにスバルのチューニングメーカーです。国内のスーパーGTや、ニュルブルクリンク24時間レースなどにも、チームとして出場しています。
先ほど述べた「WRX」に、この「STI」が付くと、最強のインプレッサになります。「WRX」がラリー向け車両であるというなら、「STI」はそのラリーに向けチューニングが施された、勝つためのクルマであると言えます。
もちろんそれだけではなく、レガシィ・フォレスター・レヴォーグなど、スバルで販売されている、その他の車種のパフォーマンスパーツなども販売しており、スバル車のカスタマイズの幅を広げています。
「WRX」「STI」について見てきましたが、ラリー車両に多く使われ、4WD車を多数ラインナップしているスバルならではの、呼び名であると言えますね。
続いては、クルマが好きな人なら誰しもが一度はあこがれるであろう「GT」についてです。「GT」というワードからすると、見るからに強そうで、高級そうで、速そう、そんなイメージを勝手に抱いてしまいますが、実際のところはどうなのでしょうか?
「GT」というのは、イタリア語の「Gran Turismo」(グランツーリスモ)(英語では「Grand Tourer」)が語源とされています。これは、グランドツーリング、つまり「大旅行」から派生した言葉です。
その言葉の通り、長距離を高速でドライブする、というような意味合いがある言葉です。長距離ドライブに適う高いパフォーマンスや、高いラグジュアリー性が与えられた車、いわば高性能車の証と言えますね。
しかし、本来は上記の通りの位置づけであったのですが、かつてのヨーロッパでの自動車レースのベース車両に、一般の高性能ロードカーが使われるようになってから「GT=レースにも参加する高性能車種」もしくは「すぐれた走行性能を持つロードカー」という新たなコンセプトが加わることになりました。
今では、長距離走行に向いたスポーティーなクーペや、セダンといった程度の認識で浸透しています。また、日産GT-Rやトヨタ2000GTなどの所謂ハイパフォーマンスカーにも、使われていることから、スポーツカーとしての印象も与えることがあります。
なるほど、最初のイメージはあながち間違いではなさそうですね。ではその「GT」に「3」がくっついた「GT3」とは、一体何なのでしょうか?これに関しては、聞いたことがあるという人は少ないかもしれません。ここからは、少々マニアックな話になってしまうかもしれませんが、しばしお付き合いください。
レース好きな方々であるならば、もうご存知であることと思いますが。「GT3」というのはFIA(国際自動車連盟)が定めた自動車レースにおけるカテゴリーの、一つのことです。市販の2シーター又は、2×2シータークーペをベースに、FIA GT3車両規則に則って改造されたレース車両を使ってレースに参戦します。各メーカーは、この規則に則って改造された車両を、実際に市販しています。
市販のスポーツカーに、手を加えたレーシングカーでエントリーできるので、間口が広く、参戦するチームにとっては、あまりコストがかからずに済むと言えるでしょう。アマチュアや、プライベーターのレース参加を促す意味合いも強いです。とはいうものの、新車で購入するとおよそ4000から5000万円!!普通の人ならば、絶句してしまう値段です。モータースポーツ恐るべしです。
各メーカーの、モデルにおけるGT3グレードは、このクラスに参戦するためのホモロゲーションモデルという意味合いが強いのです。ただ「GT3」とはいっても、先ほど例にとったポルシェGT3 RSのように、レーシングさを意識しつつも、公道を走ることができるようにデチューンされた市販車もあり、とらえ方は様々です。
いかがでしたでしょうか?単なるアルファベットの並びに、思えるかもしれませんが、そこにはそれぞれしっかりとした意味があったのです。そのクルマが、持っているキャラクターがはっきりとわかって面白いですね。ぜひクルマ選びの、参考にしてみてください。
また、本コラムで紹介しきれなかったものも、まだまだたくさんあります。ぜひ調べて自動車の知識の幅を、広げてみてはいかがでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆:北海道大学自動車部