2017年8月21日、鈴鹿サーキット国際レーシングコースにて 「全日本エコドライブチャンピオンシップ2017」が、開催されました。 この大会はエコ・ドライブの技術を競い、燃費と速さを争う大会です。
使用する車両は、 ・トヨタ・プリウスPHV ・日産・ノート、 ・ホンダ・フィットハイブリッド の、3車種です。
これらの車両を用いて、“チャレンジ”“サーキット”“テクニカル”の3競技に参加し合計ポイントを争うのです。
レースとは言え、使用できるバッテリの量や、最高速度・最低速度が厳しく制限されています。 運転者の技術で結果が大きく左右されるシビアな戦いが、真夏の鈴鹿サーキットで「静か」に繰り広げられていたのです。
さて、静岡大学自動車部もこの大会に参加したわけですが、この大会では上記の競技だけではなく、協賛各社の展示や同乗走行体験が設定されており、競技参加者でなくとも楽しめるプログラムが企画されているのです。
GTドライバーによるR35GT-Rの同乗走行、新型シビックTYPERの同乗走行等、自動車部員であれば是非とも参加したい企画、通常では体験することのできないクレーンの操作体験と展示等、多数のイベントが開催されていました。
大会のタイトルでもある「エコ」にクローズアップすると、環境を意識したプログラムで言えば、プリウスPHVの給電展示、ノートe-Powerによるエコ・ドライブ診断、燃料電池車「FCV」(Fuel Cell Vehicles)クラリティ FUEL CELLの給電展示および同乗体験、可搬型外部給電器のPOWER EXPORTER 9000の稼働展示、スマート水素ステーションの説明等々がありました。
今回のコラムでは、大会会場で展示/体験で使用された、クラリティFUEL CELLを中心にした、将来的に目指す水素エネルギー社会について注目してみます。
現在国内で市販されている燃料電池車FCVと言えば、「トヨタ・MIRAI」と「ホンダ・クラリティFUEL CELL」が知られています。
燃料電池車は、水素と酸素を化学反応させ、電気を作り出すことでモータを駆動しています。 この化学反応の際には同時に水が発生するため、走行中には水のみを排出します。
燃料電池車の後ろを走行していると、前から排出された水が飛んできた経験がある方もいるかもしれません。 ここで必要な酸素は、空気中から確保することができます。
では、水素はどのように確保しているのでしょうか。
燃料電池車には、水素を貯めておく“水素タンク”が存在します。エンジンを搭載した車で言う所の燃料タンクにあたるものです。
水素は大量に貯めておくために高圧で充填されています。そのため、高圧の水素タンクの安全性を確保することは重要です。 万が一の事故の場合には、水素をもらさないように遮断、もれた水素の安全な排出等が設計されています。
水素と酸素を燃料電池に取り込んで化学反応を起こして電気を発生させてモータを駆動するということは、結局は、電気自動車と変わらないのではないかと考える方もいるかもしれません。 しかし、電気自動車は、電気をバッテリに充電しておかなければなりませんが、一般的な自動車と同等の航続距離を確保するためには、バッテリ容量を大きくしなればならなく、自動車の限られたスペースを占領することになります。
また、充電にかかる時間もガソリンスタンドで給油する時間と比べると、時間がかかってしまいます。
一方で、水素をタンクに貯めておく燃料電池車であれば、電気自動車よりも優れた航続距離と、給油と同等の充填時間を実現することができます。
では、水素はどこで燃料電池車に充填すれば良いのでしょうか。 次は、水素ステーションに注目したいと思います。
ガソリンを給油する場所がガソリンスタンドなのであれば、水素を充填する場所は水素ステーションです。
他の場所で作った水素を運んで水素ステーションのタンクに貯めておく方式を「オフサイト型」、その場所で装置を用いて都市ガスやLPガスを原料に水素を作ったり、水と電気から水素を作る「オンサイト型」の2種類があります。
今回、鈴鹿サーキットに設置されている「スマート水素ステーション」は、水道水を、太陽光を用いて電気分解することで水素を作りだしているため「オンサイト型」に当たります。 作った水素は、装置の裏側に設置されている水素タンクに貯められ、3~4台分を貯めておくことができます。
ここで、水素を作る際に太陽光を用いているということは、CO2を排出していないということになります。 燃料電池車も走行中にCO2を排出していないため、CO2を排出しない社会の形成に大きく寄与します。
当然忘れてはいけないのは、車両を製造する際のCO2や、スマート水素ステーションを設置するためのCO2は存在するということです。
CO2フリーの社会のためには、超えなければならないハードルが多いということが分かっていただけると思います。
燃料電池車は、水素をもとに電気を作り出していることは前述の通りです。 この電気を外に取り出して、車の外で電気を使うこともできます。
ここで、自動車で使われている電気は「直流」、一般家庭で使われている電気は「交流」です。クラリティ FUEL CELLの場合、外部給電器によって直流を交流に変換をしています。 燃料電池車と接続することで、一般家庭の約7日分の電気を供給することができます。
外部給電器は、燃料電池車に搭載して移動することができます。 つまり、災害等で電気がストップした際に、道があればどこでも移動ができる非常用電源として利用することができるのです。
また、一般的な発電機とは異なり、燃料電池車と外部給電器は静かで排気ガスも出さないため、建物の中でも排気ガスを気にする必要がありませんし、周囲に騒音を注意しなければならないような場合でも問題なく利用することが可能です。
以上のように、水素と酸素を利用する燃料電池車は、単なる自動車の進化の形ではなく、未来の社会の形そのものとなる可能性もあるのです。
ここからは、会場で実際に体験見学した感想です。 まず、実際にクラリティFUEL CELLに乗ってみた感想は、 「静かで速いぞ…!?」 というのが第一印象でした。
電気自動車に乗ったこともないので、これがモータ駆動の自動車の初体験だったわけですが、これを自分の車にしても良いのではないか?と思えるほどでした。
燃料電池の動作音は特に気になることもなく、アクセルに応じたモータの音が聞こえてくる程度でした。
しかし、予想外に音が静かでつまらないということはありませんでした。
乗ってみるまでは、音が静かでつまらないかと思っていましたが、静かな車には静かな世界の楽しみ方もあるのだと感じることができました。 続いて燃料電池車に乗って、鈴鹿サーキット内に設置されているスマート水素ステーションの見学に行きました。
スマート水素ステーションは、水素ステーションを補間する役割であるため、水道水の電気分解から水素を生成するスピードも遅く、貯蔵できる水素の量も限られていますが、これが将来的には各家庭レベルに普及されれば十分な量になるのではないかと思います。
実際のスマート水素ステーションの大きさは、ガソリンスタンドと比較すればかなり小さいということができますが、課程にあると思うと邪魔になりそうだなというのが正直な感想でした。 近所に1つならありそうだなという大きさです。 燃料電池車への充填はデモのみでしたが、ガソリンを入れるのと手順はほぼ変わらないようで、ここにネガティブな点は無いと感じました。
水素の性質上、漏れても大気中へ拡散されることを考えてみても不安な点は、ガソリンと比べてもそれほど多くないのではないでしょうか。 外部給電器のデモは、ホスピタリティの内部で行われていました。 会場内の騒音に比べると、燃料電池車から出る騒音はほとんど分からないレベルで、言われなければ気づかないほどです。
今回のようなイベントに持ち出してくるには、非常に適していますね。
では実際に燃料電池車を購入し、維持する場合にどれくらいの予算が必要になるのでしょうか。 トヨタ・MIRAIの場合、車両本体価格は723万円で、CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金)が202万円なので差し引いて521万円に諸経費です。
ホンダ・クラリティFUEL CELLの場合、車両本体価格は766万円で、CEV補助金が208万円なので差し引いて558万円となります。
両車とも自動車税、自動車重量税は免税となっているので、税金の負担はありません。 CEV補助金は、国の補助金ですが、自治体によってはさらに補助金が出る場合があります。
1回の水素充填で航続可能な距離は、カタログ値では、MIRAIが約650km、クラリティFUEL CELLが約750kmとなっています。 もちろん、エアコンや電装品を使用すれば、これらの数値よりも航続距離は短くなります。 ガソリンは1リットル当たりの価格が決められていますが、水素はどうなっているのでしょうか。
水素の価格は、ハイブリッド車の燃料代と同等とされています。 実際には、1kg当たり約1000円で販売されているようです。 燃料電池車には約4~5kgの水素が充填可能なので、満タンにすると約4000円~5000円ということになります。
仮に燃料1kgで100km走行が可能だとすると、1000円で100km走れる計算です。 1リットル当たり20km走ることができる車があったとすると、レギュラーガソリンの単価を1リットル当たり130円として、100km走るのに650円かかるという計算です。 この差額が大きいのか小さいのかについては、それぞれ思うことがあると思います。
しかし、燃料電池が普及し、水素の需要が高まれば、水素の製造コストが下がり、より利用しやすい価格になるものと考えられます。
実際の所、水素を多用する社会が来るのかどうかは分かりません。 しかし私たちが、様々なエネルギーから利用するものを選ぶことができる社会が実現されることは重要なことです。 ヨーロッパでは、近い将来ディーゼルエンジン車やガソリンエンジン車を販売禁止にすることが決められました。 しかし、電気だけに頼りガソリンを使わないということが、大事なことでは無いはずです。
大切なのは、限りある資源を有効に使って快適で楽しい生活を送ることです。
そのために必要なのは、「選べる」社会なのです。 各々が自分の判断でどうするのかを考えなければなりません。
トヨタ自動車の豊田章男社長は、マツダとの電気自動車などの共同開発を柱とする資本業務提携について会見し際に「前例のない海図なき戦いが始まっている」と言いました。 各自動車メーカーも、自動車メーカー以外の新規参入組も、限りある資源を有効に使って快適で楽しい生活を送れるように切磋琢磨して欲しいものです。
(執筆:静岡大学自動車部)