こんにちは、北大自動車部です。
今回は、自動車整備の初心者の方でも理解しやすい、エンジンの載せ替え方法についてです。
車の心臓とも言われるエンジン。
もし!あなたが、そんなエンジンを壊してしまったらどうしますか?
もちろんめったに起きないことですが、車の買い替えを検討するかもしれません。
しかし、それがとても思い入れのある車だったら?
エンジンを壊すなんて想像しただけでも… 嫌ですよね。
もしエンジンを壊してしまって、
『廃車になどしたくない、新しく買い替える余裕なんてない』
と思っているそこのあなた!
とくに、お金のない大学生諸君!!
廃車にもせず、新しく車を購入せずに済む方法があるのです。
そう、自分でエンジンを載せ替えよう!
同じ型のエンジンを買ってきて、それを載せ替えるのです。新品でなくとも、インターネットオークションなどで沢山の中古エンジンが売買されています。
エンジンの載せ替えは整備士の人などに頼んだとしても、少なくとも工賃だけで10万円はかかります。だから、自分でやってしまいましょう。
エンジンの載せ替えなんて素人には無理!
と思う方もいるかもしれません。
僕も車の整備なんてほとんどしたことがなかったですし、はじめは出来そうもないと思っていました。でも、時間と根気と少しの工具さえあれば出来てしまうのです。あと、頼れる先輩も。(感謝)
そもそも、なぜ私がエンジン載せ替えをすることになったのかと言いますと...
秋のある日のことでした。
毎年、部で行っている強化合宿に参加した私は、初めての競技走行で、やる気に満ち溢れて完全に浮かれておりました。私の車は長年ダート競技に使われていて、その所為かエンジンオイルとガソリンが一緒に燃えてしまう状態、、、いわゆる「オイル上がり」な状態でした。
エンジンオイルは、簡単に言うとエンジンの内の潤滑と保護を行っています。そして普通ならエンジンオイルはピストンの下にあるクランクケースに入っています。その下にあるオイルが、エンジン内部のシリンダーとピストンと、ピストンリングのわずかな隙間をぬってオイルミスト(霧状)として、エンジン燃焼室に上って入り込んでしまう現象である「オイル上がり」になると、ガソリンと一緒にオイルも燃えて無くなってゆきます。
私の車は、15年以上も前のものです。
ピストンやシリンダーも摩耗していたのか、ピストンリングかオイルリングも摩耗していたのでしょう。そんな訳で、オイルの減りがとても速かったのです。しかし、そのことをすっかり忘れていたのです。
そして、ジムカーナを走っていた最中、いきなり明らかなパワー不足とともに“カラカラという乾いた音”が、聞こえ始めました。
・・・エンジンブローです。
原因は、オイル不足によるオーバーヒートでした。
完全に防げたミスでした。
これからどうしようかと悩んでいた時、先輩の知り合いの方から運よくオーバーホールしたエンジンを安く譲ってもらうことができ、私はエンジンを載せ替えることを決断しました。
こうして、ここから私の奮闘の日々が始まります。
前書きが長くなってしまいましたが、ここからが本番なのでもう少しお付き合いください。
私自身、何も知らない状態から整備を始めたので、初心者でも大丈夫なように簡単な表現でわかりやすく書きます。
インターネットで調べても、FR車や4駆車の載せ替えについては多くの記事がヒットするのにFF車は全然出てきませんよね。
私の車がFFだったのでFF車について書きますが、その他の駆動方式でも多くの基本は同じです。
エンジンの載せ替えで私が行った作業は、大きく分けて次の工程があります。
1.作業に邪魔なものの取り外し
2.メンバーを降ろす
3.ミッションを降ろす
4.エンジンを降ろす
5.4→3→2→1の順で各部品を付け直す
これらを順に説明していきます。
まず、エンジンを降ろす際は、当然ですがエンジンについているものを残らず取らなければなりません。
そのため、エンジン周りのものを外すために邪魔になるものや取っておいた方が作業しやすくなるものが多くあります。
わかりやすく言うと、
・エンジンを降ろしたい
→ エンジンとつながっているミッションを降ろす
→ ミッションとつながっていて、外した方が作業しやすいメンバーを外す
→ その他の外した方が作業しやすいものを外す
といった感じです。
以下、取り外すものをオレンジ太字で表記します
1.作業に邪魔なものの取り外し
では、その他の外した方が作業しやすいものとは何なのでしょうか。
まず、エンジンはエンジンクレーンで上から釣り上げるため、ボンネットは外しておいた方がよいでしょう。
ボンネットを外すと影もできないため、明るく見やすくなります。
エンジンルーム内は、細々としていて意外と見にくいです。
ワイパーやそのモーターなども釣り上げるときに邪魔です。
エアクリーナーはミッションとエンジンがつながっている部分の上にある為、外します。
配線類のカプラーも取っておきましょう。
また、作業に邪魔という理由もありますが、車の電装品を守るためや自分が感電しないようにバッテリーを外します。
すべての部品は簡単に外せます。
エアクリーナーを外したら、インテークマニホールド(以後インマニ)の入り口に布やウエスなどを詰めておきましょう。
エンジン内部に、ゴミが入り込むのを防ぐためです。
私のように壊れて使い物にならないエンジンの場合は、詰めなくてもいいかもしえませんね(笑)。
始めに行うこととしては、これくらいです。外す順番などは特に気にしなくて大丈夫です。経験者は一瞬で終わると思いますが、初めての人は恐ろしく時間がかかります。
やることがわかっていてもなかなか難しく、その時間のほとんどが観察と試行錯誤に費やされることになります。私の場合は休憩などを挟みつつ作業をしていたら、いつの間にか4時間も経っていました...
この時点で余裕のある方は、どうせ後で外すことになるので、ラジエーターも取ってしまいましょう。ラジエーターとエンジンをつないでいるホースを外すときはクーラントが入っているので、受け皿として下にバケツなどを用意してください。でないと間もなく床にクーラントをぶちまけることになります(笑)。
もちろん、ドレンボルト緩める方法でもよいです。その際はラジエーターのキャップを開けると、勢いよくクーラントを抜くことができます。
2.メンバーを降ろす
さて、準備は整ったのでこれからメンバーを取り外します。今回は、アームごと外しました。メンバーはミッション、スタビリンク、タイロッド、サスペンション、そしてボディとボルトでつながっています。取り敢えず、メンバーについているボルトはアームとの結合部以外はすべて外す必要があります。
また、ここからは車の下に潜っての作業が多くなるので、ツナギを着ての作業をお勧めします。私もはじめの方はダンボールを引いて潜っていたのですが、ツナギの方が躊躇なく潜れるし汚れを気にしなくてよいので作業スピードも気持ち早くなります。この時、バンパーを外しておくとスペースが広がって作業しやすくなります。言うまでもないかもしれませんが、タイヤも外します。
車の下にもぐって作業するときは、まずジャッキで車を持ち上げますが、この時写真のようにボディの両側にリジットラック(以後ウマ)をかけます。ウマをかけることで、車体が安定するのと安全に車台の下に潜るスペースができます。ジャッキだけだと、支点が1点で非常に不安定で危ないです。
タイロッドエンド、ロアアーム、スタビリンクとローター部は、タイロッドエンドリムーバーという専用工具を使います。タイロッドエンドリムーバーがない場合は、ボルトを上からハンマーで叩くと取れるそうですが、面倒臭いです。
ボディとメンバーの間以外のすべてのボルトを外したら、最後にボディとの結合部を緩めていきます。このボルトは4か所あるのですが、1個ずつボルトを外すのではなく、すべてのボルトを同じ間隔でゆるめていきます。
時計まわりでも、反時計回りでもX字にでも好きな間隔で、1つ目のボルトを少し緩めたら、次のボルトも同じ程度少し緩めるのです。そうすることで、一つのボルトにかかる力が偏らなくなりメンバーを降ろしやすくなります。これでメンバーを降ろすことができました。
ボルト、ナットが固くて回らないときは?
ボディの下まわりのボルトは、とても固いです。私がボルトを外すときは、基本的に最初にスピンナーハンドルを使って緩めた後、ラチェットレンチで外す方法で行っていました。ですが、とても時間がかかるので途中から部にあったエアーのインパクトドライバーを多用していました。
ある時、インパクトの最大トルクでも回らないボルトに出会ってしまいました。固いボルトに出会ったときは、はじめは5-56やWAKOSのラスペネなどの潤滑剤を浸透させ、1/2ロングスピンナーハンドル(以後デカスピ)を使って回るか試します。
また、長い時間をかけてじわじわ力をかけるのは変な方向に力がかかってねじ切ってしまう可能性がある為、出来ればスピンナーハンドルなどの先を手やハンマーで叩き、撃力を与えて行った方が良いです。
しかし、この時はこの方法でもダメでした。最終手段として試したのは、デカスピに鉄パイプを挿してさらに延長し、ソケットが垂直になるようもう一人の人に抑えてもらい、二人掛かりでやっととることができました。
ちなみに、今回の作業でメンバーを降ろすのに一番時間がかかりました。この作業が、一番の山場でした。ちなみに、ここまででの作業時間が計31時間です...
3.ミッションを降ろす
メンバーを降ろすことができたら、もう後はミッションだけです。ミッションには、ドライブシャフトやいろいろなワイヤーなどがくっついています。ドライブシャフトを抜くときは、ミッションオイルが出てきます。
したがって、あらかじめミッションオイルは抜いておきましょう。ドライブシャフトは固くて引き抜きにくいので、ミッション側のつけねにタガネなどを打ち込んで徐々にずらしていきます。
そして、変速を行うためのワイヤーのようなものがいくつかあります。これらを外したら、最後にミッションを吊っているものを取ります。ミッションはエンジン、ボディとつながっています。ミッションマウントは簡単に外せますが、エンジンとの結合部はフライホイールを囲むように9,10本のボルトがあり外しにくい場所もあります。これらのボルトは1つずつ微妙に長さや太さが違うことがあるので番号などを振って元に戻せるようにしておきましょう。
最後に、エンジンからミッションを引き抜きましょう。この時に、エンジンをクレーンで釣ります。下にもぐって、揺らしまくればだんだん取れてきます。ミッションのシャフトが、エンジンに入り込んでいるのでとても抜き辛いです。ミッションは重いので、降ろした後につぶされないよう気を付けましょう。
4.エンジンを降ろす
やっと、最後まで来ました。ここまででエンジン周りの部品はすべて外してしまっているので、エアコンの配管などを外しましょう。ゴム管は固着している場合が多いですが、そういう時はシリコンスプレーを吹いてやると外しやすいです。
エンジンは、ミッション、ボディ、メンバーによって支えられています。これまでの工程で二つはとっているので、あとはボディとの結合部だけです。エンジンをフックで釣った後にエンジンマウントを外せば、無事に下ろすことができます。
あとはこの手順を逆にやれば、新しいエンジンを載せることができます。
最後まで読んでくださった方々、ありがとうございます。
エンジンを載せ替える際の参考にしていただけたら幸いです。
また、エンジン載せ替えを手伝ってくれた先輩と部員の皆さんに感謝です。
ありがとう、また楽しく走ることが出来るよ!
(執筆;北海道大学体育会自動車部)