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自動車におけるデフの役割

みなさんは,自動車を見るときにどのようなところに注目しますか?
おそらくエクステリアやインテリアという人が大半ですよね。

これらは、多くの人の目に触れる、という意味で注目されやすい部品です。しかし自動車には、普段は人目に付きにくいものの,陰ながら支えている部品がたくさんあります。

その中で、今回は自動車の走行性能を支えている駆動系に焦点を当て,中でもデフについて詳しく見ていきます。

【そもそも駆動系とは何なのか?】

[図1]-自動車の駆動方式
[図1]-自動車の駆動方式

インターネットで検索してみると、

「自動車において、エンジンの出力をタイヤまで伝達する間の部品装置をまとめて駆動系、あるいは駆動伝達系、動力伝達系という」

と出てきます。つまり,自動車が自動車であるために必須の部品である、いうことになります。

駆動方式については[図1]のように分類することができます。

エンジンを赤色,駆動輪を青色とします。エンジンの位置と駆動輪の位置によって、左から順に「FF」、「FR」、「MR」、「RR」となります。

「FF」は自動車の前方にエンジンを積み,前輪を駆動する方式で、小型車を中心に多くの自動車に採用されています。

「FR」は前方にエンジンを積むことはFFと同じですが,プロペラシャフトを介して後輪を駆動する方式です。スポーツカーや高級セダンを中心に採用されています。

「MR」は前輪車軸と後輪車軸の間にエンジンを積み,後輪を駆動する方式です。F1などスポーツカーに採用され,市販車ではホンダのS660などがあります。

「RR」は自動車の後方にエンジンを積み,後輪を駆動する方式です。ポルシェなど一部の車が採用しています。

また,これらをベースにして残りの2輪にも駆動力を与えているのが「4WD」です。

いずれの駆動方式にしても,エンジンから駆動輪まで動力を伝える部品が、駆動系ということになります。

次に,駆動系にどのような部品があるかを見ていきます。

例えばMTのFR車であれば、エンジンの出力はクラッチ→トランスミッション→トランスファー→プロペラシャフト→デフ→アクスルを介してタイヤまで伝わることになります。普段私たちの目につかないところで、これだけ多くの駆動系部品が活躍している事がわかりますね。

個々の駆動系部品の役割については、他の記事などを参照していただくとして、本題のデフについて見ていきます。

【デフとは?】

 そもそもデフという名前は英語の、differential gear(デファレンシャルギア)、が由来です。日本語にすれば差動歯車装置ということになります。差動という文字の通り「動力」に「差」をつけて振り分ける装置です。

自動車では、エンジンからトランスミッションや、プロペラシャフトを介して伝達されてきた出力を、左右のタイヤに振り分ける役割を担っています。そのため、駆動輪以外(FF車なら後輪)にはデフはついていません。

言われてみれば左右のタイヤに動力を、振り分けるべきなのは当然ですよね?

ではなぜ複雑な機構を設けて、左右のタイヤに動力を振り分ける必要があるのか。素直に左右のタイヤに、均等な動力を与えるのでは不都合があるか。この答えは自動車の旋回について考えるとわかってきます。

自動車は当然ながら前後左右に4つのタイヤが付いています。[図2]のように直進するだけならば、左右のタイヤは同じ距離を進めば良いので、動力を均等に分けても問題はありません。

[図 2]-直進時の走行軌跡
[図 2]-直進時の走行軌跡

しかし[図3]のように、旋回時の動きを考えると話が変わります。

仮に、内側の半径がR=50mの円を描いて、トレッド1500mmの小型車が旋回することを考えます。

円周の長さはご存じの通り、(直径)×(円周率)なので,内側のタイヤは100m×3.14=314m走れば良いことになります。

15インチタイヤの円周を2000mmとすると,これは157回転に相当することになります。
一方で外側のタイヤは、103m×3.14≒323m走る必要があります。

これは161.5回転に相当することになり、外側のタイヤの方が4.5回転ほど多いことになります。旋回を考えるなら、距離が長い外側のタイヤが走りきる必要があるので、内側のタイヤはその分空転していることになります。

空転するということは、動力が無駄にな理、タイヤも早く摩耗し、良いことがありません。そのため自動車は,デフによってエンジンの出力を、左右のタイヤに適切に振り分けているのです。

[図3]-旋回時の走行軌跡
[図3]-旋回時の走行軌跡

デフによって、左右のタイヤに動力が振り分けられることはわかりましたね。では次に、デフはどのような構造でこの仕事をしているのかを見ていきます。

【デフの構造】

大まかなデフの構造は[図4]のようになっています。

図の中の台形の部分はそれぞれが歯車です。直進時は以下の①から⑤の順にエンジンの出力が左右輪に伝わります.

① エンジンからの出力が、ドライブピニオンギアに伝わり、回転を始める。
② ドライブピニオンギアの回転がリングギアに伝わる.
③ リングギアとデフピニオンギアはデフケースを介して一体となっているので,デフピニオンギアがリングギアと同じ速度で回転する.このとき,デフピニオンギア自体は回転しない.
④ 2つのデフピニオンギアは同じ速度で回転しているので,左右のサイドギアもリングギアと同じ速度で回転する.
⑤ サイドギアの回転が左右のタイヤに伝わる.

[図4]-直進時のデフの動き
[図4]-直進時のデフの動き

これが直進時のデフの動きです。

この場合には、両方のサイドギアが同じ速度で回転します。だから、左右のタイヤに回転差は生じず、走行することができます。

次に,旋回時のデフの動きについてみてみます。エンジンの出力がデフピニオンギアに伝わるところまでは先ほどと同様です。そこから先の動きが変わってきます。

[図5]を用いて右旋回時のデフの動きを説明します。

① エンジンからの出力がドライブピニオンギアに伝わり、回転を始める。
② ドライブピニオンギアの回転が、リングギアに伝わる。
③ リングギアとデフピニオンギアは、デフケースを介して一体となっているので、デフピニオンギアが、リングギアと同じ速度で回転する。
④ 右旋回時には、右側(内側)のタイヤに負荷がかかり、回りづらくなる。
⑤ 右サイドギアが回りづらくなっても、デフピニオンギアはリングギアと同じ速度で回転しているので、デフピニオンギアが⑤の矢印の方向にも回転する。
⑥ デフピニオンギアの回転によって、左サイドギアがその分の回転を加えた速さで回転する。
⑦ 結果として、左側が多く、右側が少ないように回転する。

[図5]-旋回時のデフの動き
[図5]-旋回時のデフの動き

これが右旋回時のデフ動作の仕組みです。左旋回時は⑤以降が左右逆となり、左右輪の回転差が生じます。

このように,自動車はエンジンの出力を左右輪に振り分けて、安全に,効率よく走ることができるわけです。

しかしこのようなデフにも、大きな弱点があります。それは,ぬかるんだ道や雪道などで片輪がスリップした状態や、脱輪したような状況です。

先ほどのデフの仕組みに戻って考えてみると、片輪がスリップしている場合というのは、滑っていない側のタイヤにのみ負荷がかかっています。

つまり,負荷が100:0の状況(完全に片輪が空転している状況)では、デフが仕事をするあまり、負荷がかかっているタイヤ(スリップしてないタイヤ)が回転せず,スリップしている方のタイヤのみを回転させようとすることになります。

このため、純粋なデフのみの場合には、片輪が空転している状況からの脱出が、非常に困難になってしまいます。このようなデフの弱点を克服するために、デフロックという機構や、LSDという部品があります。

まずデフロック(Diff-Lock)は、左右の駆動輪の回転差を固定する機構のことです。日本語では差動固定装置です。その名の通り、左右両輪を駆動させることができますが、動作している間は左右に駆動力を振り分けるというデフの役割は果たさないことになります。
そのために,スタックした状況からの脱出などには有用ですが、デフロック状態にしてカーブを曲がることなどは、基本的にできません。

【LSD】

次にLSDです。

LSDはLimited Slip Differential gear の頭文字をとった言葉です。日本語では「差動制限装置」となります。その名前の通り、デフの差動量を制限する装置です。ただし、構造上デフロックのように完全に回転差を固定することはできません。

例えばスポーツ走行などでは、コーナーを曲がるときに、片輪が浮いてしまうことがあります。このときLSDが装着されていなければ、100:0~0:100の範囲で駆動量が決まり、片輪が浮いている間は、地面に触れている方のタイヤに駆動力が伝わりません。これではコーナリングスピードが低下してしまいます。

そこで、例えば80:20~20:80の間で駆動するように差動を制限するとします。そうすると,片輪に負荷がかかっていない方のタイヤの空転を抑え、コーナリングスピードを上げることができます。レースなどではLSDも重要なセッティング項目の1つです。

同じように、LSDがついていれば均等配分にはなりませんが、ぬかるみや雪道でスタックしたときに、反対側のタイヤを駆動させて脱出することが可能になります。

このLSDには大きく分けて、「回転感応式」と「摩擦式」の2種類に大別できます。回転感応式のLSDでは、「ビスカスLSD」や「多板クラッチLSD」といったものがあります。

摩擦式のLSDでは、「トルセンLSD」や「ヘリカルLSD」といったものがあります。今回のコラムでは,これらのLSDの仕組みを詳しく説明する趣旨ではないので,興味を持った方はさらに調べてみてください。

【まとめ】

さて今回は、デフを中心として、自動車の駆動系について見てきました。駆動系の中のデフに興味を持ってもらえたでしょうか。

これまで、駆動方式くらいしか確認していなかったような方が、駆動系に興味を持ってもらうことができたなら、このコラムは目的達成です。

駆動系に限らず自動車には、普段あまり表に出てこない部品がたくさんあります。乗っているだけでは見向きもされない部品でも、それぞれの部品に重要な意味や役割があります。

今回のデフを切り口に、ほかの部品についても知ってみようと興味を持ったのであれば、いろいろと調べてみることで、自動車と一緒の生活がもっと楽しくなりますよ。

【執筆 横浜国立大学フォーミュラプロジェクト】

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