こんにちは。静岡大学自動車部です。
世界で初めての量産ハイブリッドカー「プリウス」が販売されてから約20年が経過しました。「21世紀に間に合いました」という、初代プリウスのキャッチコピーが示すように、20世紀の最後に次世代の自動車像を表しました。現在では町に出ると、ハイブリッドカーを見ない日はないほど、身近なものになりました。
ここまでハイブリッド車が普及したのは、やはりプリウスの影響力が大きいです。その影響で、ハイブリッドカーは環境にやさしく燃費の良い車、という印象が付きました。プリウスは、モデルチェンジを重ねるごとに販売台数が伸び、近年ではトヨタのみならず様々なメーカーから、多種多様なハイブリッドカーが販売されています。
少し前までは、「ハイブリッドカーといえばトヨタのプリウス」というイメージが強く、システム自体も非常に効率的で、ライバルのハイブリッドカーである「ホンダ インサイト」を抑え、ハイブリッドのトヨタという立ち位置を確立し、ハイブリッド市場の覇権を握ってきました。
しかし2018年上半期の車種別売り上げランキングでは、1位がニッサン ノート、2位がトヨタ アクア、3位 プリウスとなりハイブリッドシステムをそなえるノート(e-power)に、アクアが首位を奪われる結果となりました。各社のハイブリッドシステムの研究と開発により、様々なシステムが開発され、ハイブリッド=トヨタ一強という構図は、崩れつつあります。
では、それぞれのハイブリッドシステムにはどのような特徴やメリットがあるのでしょうか。
ハイブリッドシステムは大きく分けて3種類あります。①シリーズ式②パラレル式③シリーズ/パラレル式です。それぞれを解説します。
電動モーターのみで走行するハイブリッドシステムです。電動モーターが電力不足になった際には、エンジンによって発電機が回されて充電されます。走り出しがスムーズである一方、ほかの方式に比べてパワーで劣ります。
一般的な車に採用されている、エンジン→変速機→車軸という構成に、電動モーターが追加されたハイブリッドシステムで、エンジン駆動をベースとします。そしてパワーが必要な際には、電動モーターが補助をするという仕組みです。他の方式より、燃費性能は劣るものの、コストが安く済むというメリットがあります。
①のシリーズ式と②のパラレル式、それぞれが組み合わされたハイブリッドシステムです。低速走行時や高速走行時など、状況に応じて使い分けられるため、非常に効率的な走行が可能です。そして燃費性能が優れています。
次に各社のハイブリッドシステムはどのような仕組み、特徴があるのかを見てみましょう。
トヨタのハイブリッドシステムは、エンジン出力を常に最適な駆動力/発電の割合に分割制御し、モーター駆動・エンジン駆動・モーター/エンジン駆動を状況に応じて使い分けるシステムです。
停車状態ではすべてのエネルギーユニットが停止し、無駄なエネルギー消費を抑えます。発進から低速域まではモーターで走行し、高速域や高い負荷がかかる状況になると、エンジンが駆動します。減速時はモーターにより発電を行い、バッテリーに充電します。このように、エンジン効率の良い回転域とモーター駆動を組み合わせ、低燃費と走行性能の両立を可能にしています。
初代プリウスからこの方式を採用し、ハイブリッド技術を確立しました。初代こそ販売台数が伸びなかったものの、二代目から販売台数を爆発的に伸ばし、ハイブリッドは環境にやさしく、低燃費で高級感もある、といったイメージを定着させることに成功しました。また、同じハイブリッドシステムを備え、プリウスよりも小型化し、手の届きやすい価格で販売したアクアは、飛躍的に販売台数を伸ばすと同時に、ハイブリッドをより身近なものへとしました。
ホンダのハイブリッドシステムは、低速域においてエンジンは発電機を回し、高速域では効率の落ちるモーター駆動からエンジン駆動へと、動力を切り替えるシステムです。THSとは異なり、高速域と低速域で、役割がはっきりと二分されているのが、ホンダのハイブリッドシステムの特徴です。
低速域ではエンジンは発電のみに用いられ、高速域では走行用モーターは停止し、代わりにエンジンと駆動軸がクラッチによってつながり、エンジンでタイヤを直接駆動します。そして負荷がかかった時や加速するときには、モーターによるアシストが入り、ハイブリッド制御となります。
またNSXに搭載されているSH-AWDは3基のモーターと3.5リッターV型6気筒ガソリンエンジンによりハイレスポンスで、最適な前後左右のトルク配分を可能にし、日常的な性能とスポーツ性能の両方を、高い次元で実現しています。現行のAWDシステムの中で、最も優れているシステムの一つとも言えます。
トヨタプリウスに代表されるハイブリッド車は、エンジンとモーターのそれぞれを動力とし、シーンごとに役割を分担、より効率のいい方を選ぶか、または併用して走行します。それに対してe-powerは、モーターのみで走行します。エンジンは発電専用となっており、エンジンは動力としては利用されません。これはe-powerの最も大きな特徴です。
e-powerに搭載されているモーターは非常に強力で、瞬時に最大トルクを発揮できるモーターの特性により、電気自動車とまったく同じ、力強い加速とレスポンスが特徴となっています。
またモーター走行による静かな走行音も特徴の一つです。走行中はエンジンが発電機として作動するため、無音の連続EV走行はできないものの、発進時や減速時など、モーターのみが駆動する場合は、電気自動車のような静かさを実現しています。
また、減速時に回生発電によりバッテリーへ充電するときは、モード選択により、アクセルペダルを緩めるだけで、より強く回生発電するとともに減速することができ、アクセル操作のみで加速・減速をすることが可能です。
一方で、モーターが苦手とする高速域では効率が悪くなり、その点ではガソリンエンジンを動力に利用するパラレル式やシリーズ/パラレル式よりも劣ります。
s-エネチャージは、加速時にモーターでエンジンをアシストし、さらなる燃費向上を実現するシステムです。厳密にはハイブリッドシステムとは異なり、エネチャージの機能をさらに向上させたものになります。
元々エネチャージは、エアコンやオーディオ、ウィンカーなどの電力を使う電装品にのみ、エネルギーを使っていました。s-エネチャージは電装品だけでなく、エンジンの始動やモーターにも、エネルギーを使えるようにし、燃費向上と、走行音の最小化を実現しました。
オルタネーターの代わりに、モーター機能付発電機(ISG)と二種のバッテリーを備え、減速時には減速エネルギーによりISGで発電、通常の鉛バッテリーとリチウムイオンバッテリーに充電します。加速時にはモーターでアシストし、エンジンの負担を軽減、その結果ガソリンの使用量を減らします。一方でTHSのように、モーターのみでの走行はできません。
コンパクトなシステムなので、コストが安いだけでなく、車の構造が従来とほとんど変わらず、居住性に影響を与えないというメリットがあります。そのほかにも、アイドリングストップからのエンジン始動音が静かで、セルモーターの起動音がないというメリットもあります。
このように現在のハイブリッドシステムには、様々な種類があり、それぞれ各メーカーの技術の粋が結集されたものであることがわかります。最近では乗用車だけでなく、バスやトラックでもハイブリッド化が進んでいます。
またハイブリッドシステムは環境にやさしく、低燃費というメリットから、エコカーに利用されているだけでなく、NSXやLEXUS LCなどのスーパーカーや、スーパーGTなどのモータースポーツにも利用されており、これらのジャンルにおいてもさらなる活躍が期待されています。
今なお技術発展が続くハイブリッドシステムが、今後どのように進化していくのかたのしみです。
執筆:静岡大学自動車部