エンジンに関わる部品のうち、なくてはならないパーツは沢山ありますが、今回はそのうちの1つである【ラジエーター】について取り上げます。
運転しているエンジンでは絶え間なく熱が発生しているので、どうにかしてその熱を冷まさなければなりません。
その熱を冷ますために必要なのが【ラジエーター】です。ラジエーターは熱交換器の一種です。エンジン内部を循環してきた冷却水を、外の空気と熱を交換して温度を下げるという役割を担っています。
実際に熱交換を行う部分をコアと言います。通常は、フロントグリルの内側にラジエーターが設置されています。
ところで、エンジンで燃料を燃やして発生したエネルギーのうち、実際に使われるのは約30%と言われています(これを熱効率といいます)。
では他の70%はどこに使われているのかというと、
・排気損失
・冷却損失
・機械損失
など、様々な損失に使われてしまっています。
エンジン開発の1つの目標である“熱効率の向上”とは、すなわちこれらの損失を小さくすることに繋がります。
エンジンを通ってきた冷却水の温度と、ラジエーターを通って熱交換した冷却水の温度の差が大きくなればなるほど冷却損失も大きくなってしまいますが、かといって差が小さいと冷却が追い付かずオーバーヒートしてしまいます。
適切な放熱性能を満たし、小型軽量でかつ耐久性があることがラジエーターに求める性能です。
これから、それらの性能の向上を目指して発展していったラジエーターの様子について見ていきます。
まず、世界で初めて自動車に関する特許を取得したのはカール・ベンツが1885年に開発したベンツ・パテント・モートル・ヴァーゲンです。
しかし、この頃のエンジンは空冷で、まだラジエーターは搭載されていません。1901年にアメリカで開催された第2回自動車ショーでは、“水冷式のエンジン”が展示されていたことから、アメリカではその頃にラジエーターが搭載され始めたと考えられます。
初期の自動車用ラジエーターや、戦時中の日本の航空機用冷却器に使用されていたのが、図-3の蜂巣型コアです。
このコアは、細い銅パイプの両端を六角形に加工したものをいくつも組み合わせて所定の大きさにした後、両面をはんだ付けして製作します。見た目の通り、蜂の巣の形をしているため蜂巣型と名付けられています。
詳細は後述しますが、この後に登場するコアは、水管をいくつも並べ、その周りに伝熱面積を大きくするためのフィンを配置し、そのフィンの間を風が通るようにして冷却するしくみになっています。
図4を見ると、蜂巣型コアはその逆で、空気が通る管がいくつも並べられ、その周りを水が流れるようになっています。そのため、このような形式のコアを空気管式ともいいます。1930年代以前のクラシックカーに用いられていたラジエーターではこの蜂巣型コアがよく使われていました。
しかし、この形状は製作が非常に難しいため、より製作の容易な形状が用いられるようになります。初期のラジエーターのコアに用いられていたこの形状は、現在では製品も設計図も失われ、詳細な構造は不明となっています。
蜂巣型の次に登場したのが、このセルラー式と呼ばれる型式です。この型式には、六角型・ダイヤ型など、様々な種類があります。これらは、すべて表面の幾何学的模様が異なるだけです。基本的構造や製造方法は、ほとんど同じです。
このセルラー式の特徴は、空気管式と違い、製作にパイプ材を用いないことです。
代わりに、銅系材料の薄いテープ材を波状に成形します。この時の成型形状の違いが、上記のような型の違いになります。
薄いテープ材を2枚組み合わせて袋状の水路をつくり、同じように波状成形した1枚のテープ材を交互に積層して所定の大きさにします。その後、コアの前後面をはんだに浸漬して固定・水密します。
このような製作方法の簡便化により、空気管式からこの型式が取って代わるようになりました。ですがその後、強度上の理由により後述する水管式のプレートフィン型が主流になります。
しかし、米国のハリソン社はこのセルラー式コアを改良した、リボンセルラー式と呼ばれる型式を考案しました。
このリボンセルラー式コアは、ハリソン型とも呼ばれています。この型式は、水路はセルラー式と同じように波状に成形した薄いテープ材を積層することで製作します。
セルラー式との大きな違いは、水側と空気側の伝熱面を分離することで、熱通過率に対応する放熱面積の配分を合理的にしている点が挙げられます。この時の空気側の部材をリボンと呼んでいましたが、現在ではコルゲートフィンと呼ばれています。
この型式は、規則正しい配列で並べられたチューブと、そのチューブに直交するように並べられたプレートフィンで構成されています。ここで用いられている偏平型のチューブは、主にパイプからではなくテープ材から作られています。
巻き締めというテープ材を管状に巻いた後に合わせ目をかしめて成形する方法が開発され、この型式は広く普及するようになりました。
そして、プレートフィン型が広く普及した後に、プレートフィン型の強度とハリソン型の空気側熱伝達率の両方を兼ね備えたコルゲートフィン型と呼ばれる型式が登場します。放熱性能に優れ、比較的安価に製造でき、大量生産も容易であるため、現在販売されている乗用車はほとんどがこの型式です。
この型式は、平行に配置したチューブとチューブの間をロール成形した波状のフィンでつないで成形します。詳しくは後述しますが、ルーバーとは放熱性能を上げる役割を果たします。
次の3章では、コルゲートフィン型コアを構成する部品について詳しく見ていきます。
チューブは冷却液の通路となり、冷却液から受けた熱をフィンに伝える役割、そしてチューブ自体から空気中に熱を放出するという役割も持ちます。またラジエーターの強度は、チューブの寸法に依存します。
2-3.1で、チューブの製作方法を書きました。ここでその断面を見てみたいと思います。
この図-8を見ると、パイプ材からではなく、1枚の薄板から製作されていることがわかります。複雑な工程で作られますが、適切な道具を用いれば手作業でつくることもできます。ここまで銅系材料でコアを製作すると書きましたが、現在では銅ではなくアルミで製作するのが一般的です。
銅系材料の場合は上記のロックシーム型チューブが用いられていましたが、アルミの場合はこれとは別の、バッドウェルド型(突合せ溶接型)とよばれる製作方法でチューブを製作します。この型の断面は図9のようになります。
この方式もロックシーム型と同じく、1枚の薄板の端面を突き合わせて溶接して製作します。黄銅製ラジエーターにはロックシーム型・バッドウェルド型のどちらも使用されていますが、アルミ製ラジエーターではバッドウェルド型を使用するのが一般的です。
2-3.2では、ルーバーは放熱性能を上げる役割を果たすと書きました。
ここではルーバーがどういう働きをしてそのような効果を得るのかを書きます。まずルーバーがどういう構造になっているのかというと、図10ように、フィンに切り込みを入れてそれを少し起こしたような形になっています。
このルーバーの幅や奥行き、起こす角度などで、ラジエターの性能が変わり、そのことに関してはさまざまな研究がされています。
次に、ルーバーがあることで風の流れがどう変わるのかを見ていきます。フィンの断面図と風の流れのイメージ図を、図11に表します。
この図11では、右向きが奥行き方向になっています。これを見ると、風が上下に移動していることがわかります。すなわち、ルーバーがあることで風がラジエーターを通過する時間が長くなり、ラジエーターの厚みを増やすのと同様の効果を得ることができるのです。
このルーバーの配置によって、平行ルーバーフィン・傾斜ルーバーフィン・オフセットフィンなど、様々なフィンの種類があります。
ですが通常の車は、ほとんどが基本ルーバーフィンです。コルゲートフィン型コアで紹介したこのルーバーですが、コルゲートフィンにルーバーを付ける技術はハリソン型で後年になって現れました。
ルーバーの効果が理論的に体系づけられたのはこの技術が現れてしばらくたってからのことでした。
ここまで、ラジエーターのコアの歴史と、近年最もよく使われているコルゲートフィン型コアの構成部品について見てきました。
しかし、ラジエーター自体の構成部品はもっと多くの部品からできていて、非常に興味深いです。
ここではそれらの部品は扱いませんが、この文章でラジエーターについて興味を持った方は調べてみてください。エンジンの冷却は、奥が深く面白いです。市販車についているラジエーターのコアも全部同じに見えるかもしれませんが、よく見るとフィンのピッチや幅などが違っていて面白いです。
さらには水の流れる方向や材料なども違うことがあり、興味が尽きることはありません。
このコラムをきっかけに、ラジエーターやその冷却配管などにも興味を持っていただけたら幸いです。
(執筆:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト(YNFP))