こんにちは、横浜国立大学フォーミュラプロジェクトシャシー班、アーム、プッシュロッド、ベルクランク担当です。
今回は私の担当パーツであるアーム、ロッド、ベルクランクについてお話させていただきます。お話するにあたって、内容を大きく3つに分けました。
1.各部品の役割について
2.弊チームでの設計、製作の仕方について
3.今後の展望について
これらの3種類の内容について順にお話していいます。
それによって、アーム、プッシュロッド、ベルクランクについて大まかに知ってもらうことを目的としています。
アーム、プッシュロッド、ベルクランク、これらのパーツはサスペンションを構成するパーツの一部です。
そして、それらのパーツの役割はサスペンションとしての機能を実現させることにあります。
よって先に、サスペンションの役割を説明した後、各パーツの役割の説明を行いたいと思います。
なお、弊チームの採用しているサスペンションの形式がダブルウィッシュボーン式サスペンションとなっている関係で、一部ダブルウィッシュボーンに限った内容となっております。
サスペンションの役割は大きく分けて2つあります。
それは搭乗者の乗り心地を向上させることと、車両運動の安定化を図ることです。
そして、その2つの役割は車両に対してタイヤを完全に固定することなく、状況に応じてストロークすることを可能にすることによって実現されています。
チープな表現になってしまいますが、人間でいう膝のような、衝撃を吸収したり踏ん張ったりすることができる機構を実現しているイメージをもって頂ければいいと思います。
V字の形状をした2対のパーツで、車体とアップライトを接続する役割を担っている。
車体に対してVの字の上部を車体側に、V字の下部をアップライト側に接続し、上下2対のアームがそれぞれ車体の接続点を結んだ直線を回転軸として回転することによってアップライトが機構学的な運動をすることによって、ストローク運動を可能としている。
なお、下側のアームにはプッシュロッドと接続する機構が備えつけられているため、少し形状が異なる。
形状は円筒状の棒で、アームとベルクランクを接続する役割を担っている。
アームのストローク運動を制御するための力を伝えるパーツで、アームを状況に応じた適切な強さで押すことで適切なストローク運動を実現させている。
形状はさまざまで車体、ダンパ、プッシュロッドを接続する役割を担っている。
車体の接続部分を回転中心として、円運動をすることによってダンパから入力された力の向きをプッシュロッドの軸方向に変更している。
次に設計、製作についてお話していきたいと思います。
何を考えて設計し、どう製作するかをおさえることも私はパーツの理解に重要であると考えます。
弊チームの設計は次のフローチャートに示されるような手順で行われます。
簡単にフローチャートの結果を簡単にまとめます。
○目的設定
全日本学生フォーミュラ大会で総合優勝を達成する
○目標設定
例年の各チームの得点獲得の傾向から弊チームの必要な得点予想し、それを実現するために必要なマシーンの要素を明確に設定する。
○手段の確立
必要なマシーンの要素を満たすよう、パーツの設計、データ収集を行う。
○結果の評価
設計したパーツを評価し、目標を達成しているか検討する。
満たしていなかった場合、手段を見直し、場合によっては目標の見直しを行って目的を達成することを可能にするパーツに仕上げる。
この段階まで終わって、私のパーツに課せられる課題が決定します。
そして、それは目標剛性値の確保と軽量化でした。剛性と軽量化は基本的にトレードオフの関係にあります。
なので、そのバランスを調整するのは難しいことであります。
弊チームでは軽量化を優先するという方針で設計を行うこととなっているため、その調整は軽量化を優先して、剛性目標は最低限クリアしていればよいとして、設計を進めました。
設計の具体的な話に入っていきたいと思います。
私の設計は主にサスペンションジオメトリ(今後はサスジオと略す)担当の決定事項を形にすることにあります。
具体的に言うとサスジオ担当が決定した各パーツの主要部分の配置を基に、材料、形状を決定し、3Dモデルを作成し、意図した幾何学的挙動を実現できているか確認することにあります。
それができたのち、ステーや製作用の治具の設計を行い、図面をかき上げて終了となります。
材料や形状に関しては大会のレギュレーションや市場に出回っている製品の関係で、あまり選択の余地がない状況となっています。
なので、例年似たり寄ったりな設計となっております。資料やノウハウの蓄積ができているので、3Dモデルの作成段階までに限っていえば、比較的容易な作業となっております。
しかし、3Dモデルの修正、確認作業はノウハウなどではカバーできない、地道な作業となっているので、設計における難所となっていります。
確認作業というのは、パーツ同士が干渉していないか、組み立て可能な構造になっているか、可動域は確保されているかなどといったことです。
なので、私の役割はそういった検査項目のうち、問題を発見したらいち早くサスジオ担当とフレーム担当に報告し、解決案を話会い、モデルの修正を行うことにあります。
フレームはマシーンの中で序盤に設計凍結(変更を行わない状態にして、他のパーツがそれに合わせて設計を行う)を行います。
それができるかできないかで設計が円滑に行えるかどうかが分かれてくるのでとても重要なことです。
なので、アームの設計作業の肝はいかに迅速に決定、変更事項に対して対応し、フィードバックできるかにあります。
アーム、ロッド、ベルクランクの設計はサスジオやエアロに比べ、派手ではありませんが、限られた期間で良い設計を行う上で大切な作業となっております。
次に製作の具体的な話をしたいと思います。
初めにアームから
1.パーツと治具を用意します。上の画像がパーツ一覧で、下の画像が治具一覧です。
部品番号 | 部品名 | 個数 |
---|---|---|
1 | パイプ | 2 |
2 | スリーブ | 2 |
3 | スフェケース | 1 |
4 | ブラケット | 2 |
5 | ガセット | 1 |
6 | ロッドエンド | 2 |
7 | ナット | 2 |
部品番号 | 部品名 | 個数 |
---|---|---|
1 | 治具板 | 1 |
2 | ブラケット1 | 1 |
4 | ブラケット2 | 4 |
2.パイプとスリーブを溶接によって接合します。
3.2で作成したパーツに下穴をあけた後、ねじを切り、ロッドエンドを差し込みます。
4.治具に3で製作したパーツとスフェケースを治具にセットして、3で製作したパーツをスフェケースの形状に合わせて加工します。
5.パーツを順に溶接します。(溶接部を赤い線で表示)
↓
↓
6.アームを治具から外し、スフェケースにスフェリカルベアリングを圧入して完成です。
次にプッシュロッド
1.下の図のようなパーツを用意します。
部品番号 | 部品名 | 個数 |
---|---|---|
1 | パイプ | 2 |
2 | スリーブ | 2 |
3 | ロッドエンド(右) | 1 |
4 | ナット(右) | 2 |
5 | ロッドエンド(左) | 1 |
6 | ナット(左) | 2 |
2.パイプとスリーブを接着します。(アームとは異なり、パイプの素材がカーボンであるため、溶接ではなく、接着によって接合します。)
3.スリーブに下穴をあけ、ねじ切りを行います。
このとき注意が必要で、1つは右ねじで、もう1つは左ねじでねじと切ります。
そのあと、それぞれのねじ穴にあったロッドエンドを差し込み完成です。
最後にベルクランクです。
1.パーツと治具を用意します。
部品番号 | 部品名 | 個数 |
---|---|---|
1 | ハウジング | 1 |
2 | ベアリング | 2 |
3 | プレート | 2 |
4 | Cリング | 1 |
5 | 治具1 | 1 |
6 | 治具2 | 1 |
2.プレートとハウジングを溶接して接合します。
3.治具を外し、ベアリングを圧入して、Cリングをはめ込んで完成となります。
余談になりますが、私の担当パーツをはじめ、フレームなどのパーツは接地(マシーンが最低限自力で体制を保つことができる状況)をするために序盤に制作されます。
ここまでくると、マシーンがなんとなく車と認識できる形になり、うれしい瞬間が訪れるときとなります。
最後に私の担当パーツの今後の展開について実体験をもとにお話しさせていただきます。
設計でも述べた通り、私のパーツには制約が多く、あまり大きな変更を行うことができません。
そんな中、2つほど検討段階で断念した変更案があったので、紹介させていただきます。
この2つの変更は突拍子なものではなく、F1マシーンで採用されている技術を取り入れてみようという試みであります。
よってその試みは王道的な試みであると考えています。
そして、その試みというのは、「アームの一部カーボン化」と「パイプ部断面形状を円形から楕円形に変更すること」です。
この2つの変更案は実現できれば大きなメリットが得られると考えていますが、弊チームの現状では実現が難しく、断念せざる終えない試みでした。
しかし、近年、他大学のフォーミュラチームでは実現しているところが現れはじめ、弊チームでも近い将来実現するかもしれないものであるので、考えられるメリットと実現を断念した理由についてお話させていただこうと思います。
初めにカーボン化について
・メリット
同等の剛性を保ちつつ軽量化をねらうことができる。
・断念理由
カーボン樹脂がとても高価であること
溶接による接合ができないため、接着材による接着をすることとなるが、接着技術が確立されていないこと
カーボン樹脂は金属と異なり、塑性変形域が狭いため、設計難易度が各段に上がってしまうこと
次にパイプ部断面の楕円化について
・メリット
断面積を据え置きにして、荷重方向に対する断面二次モーメントを増加させること
空気の流れる方向に対して垂直方向の肉厚を薄くすることによって空気を流れやすくして、エアロデバイスの効果を向上させること
・断念理由
パイプを均等に押しつぶして任意の楕円形状を形成する技術を弊チームが有していなかったこと
これらの理由により、私は実現させることがかないませんでしたが、後輩にはぜひ実現してもらいたいと思っています。
以上をもちましてアーム、ロッド、ベルクランクのお話を終わらせていただきます。
パーツの役割、設計、製作という一連の流れを私の実体験を交えてお話するように心がけて書かせていただきました。
この狙いは体系的なイメージをつかんでもらうことです。
このイメージが私の担当パーツの理解の助けになればいいなと思っています。
以上、ご拝読ありがとうとございました。
執筆:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト