途上国にみる自動車解体産業の課題
新興国・途上国の中古部品販売事情
自動車に乗る人が増えれば増えただけ、それに伴い自動車部品の必要性が生まれ、必然的に需要が増えます。日本において自動車解体業界が急成長し、今日の発展まで辿り着いたのは1960年代後半から始まった自家用車の普及の拡大、いわゆるモーターリゼーションが大きく関わっていることが明白です。そして今、その波が発展途上国や新興国にも及んでおり、中古部品販売業の成長が目覚ましいと言われています。しかし、それらの産業の実態を見てみると、日本の自動車解体業の主流である、「使用済み自動車(廃車)を回収して部品を取り出し販売する」といったものとは少し違うようです。
中古車部品のメインは海外からの輸入品
途上国などで販売されている自動車中古部品は、その
ほとんどが輸入品であり、この中にはもちろん日本から輸入したものも多く含まれます。これには単純な理由があり、途上国外、
特に日本製の中古部品は、日本の道路事情が途上国に比べて格段に良いのでサスペンション等の劣化も少ないですし、車検制度の充実により、エンジンオイル等のメンテナスがよく実施されているなどの理由から
古くても安くて品質が高いため、自分の国の自動車を解体して回収した中古部品を売るよりもずっとお金になるからです。
また
トコトン古くても使用されるために
廃車の発生が少ない事に加え、都市部で使用された古い車が田舎に拡散販売されて行く等の事情もあるようです。 さらに、その背景には各国で定められた
中古自動車の輸入の規制が関与しています。実は発展途上国の中でも中古自動車の輸入の規制が厳しい国は意外に多く、右ハンドルの日本車を含む
海外からの中古車輸入は制限されています。これには自国の自動車産業の発展を守るという目的がありますが、中古部品に関しては関税の規制が多少あるくらいで、
ほとんど規制がない状況です。
そこで、そのような国には自動車(完成品)ではなく、部品としての輸出が盛んになっています。これは日本を含めた中古部品を輸出する側の国としては良いことですが、それらを使用する新興国や発展途上国の立場にたった場合、自動車解体産業の発展という観点から
リサイクル事情の未来を考えると、手放しで喜ぶこともできないのではないでしょうか。前途したように、多くの新興国や途上国には
世界中から品質の高い中古部品が入ってくるため、修理などに使用する中古パーツは
輸入品で賄えてしまいます。どんな自動車ユーザーでも、品質の高いものの方が良いのは当然です。
輸入品に頼ったことで浮き彫りになる問題点
しかし、それによって、
自国で発生する使用済み自動車の行く末はどうなるでしょう。沿岸部の都市部から中古車で田舎に売られて内陸の過疎部で廃車を向かえた場合、鉄などは資源としてリサイクルできますが、廃車から出る部品や素材は決してそれだけではありません。その中には
適正に処理しなければいけない部品や
廃オイル等の環境に負荷をかける物質もたくさんあります。自国の使用済み自動車からでる部品をリユースできない(されない)、環境負荷がかける物質を適正処理できない(されない)ことはいずれ
産廃処理などの環境問題になることが目に見えています。
途上国の自動車普及率はこうしている今もどんどん増えているのですから。
海外に日本の自動車リサイクル技術を伝える
使用済み自動車のリサイクルやリユースはビジネスだけが目的ではありません。むしろ本来、限りある資源を大切に使うという自然環境の取り組みの一環であるべきなのです。そういった意味からも、これからますます増え続けることが予想されるであろう途上国に必要な自動車リサイクルの技術を、我々日本を含めた先進国が伝えていくという取り組みは、非常に大切なことだと考えます。