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学生フォーミュラにおけるエアロデバイス設計

今月のコラムでは、学生フォーミュラのエアロデバイスについて書きたいと思います。

私は、YNFP(横浜国立大学フォーミュラプロジェクト)で、2年間エアロデバイスの設計と、製作を担当してきました。
また、空気抵抗を減少させ、車両周りの空気を整流する設計についても担当しています。
コラムでは、学生レベルでの空力設計プロセス内の設計に入る前に、レイアウトの決定工程について、実際の手順に沿って詳しく説明していきたいと思います。

1、 エアロデバイスとは

レーシングカーにおけるエアロデバイスとは、空気力学に基づき、ドラッグ(空気抵抗)の増加を最小減に抑えながら、走行風を利用してダウンフォース(下向きの揚力)を発生させるために車体に取り付けるパーツ類の総称です。
乗用車とフォーミュラカーでは、エアロデバイスの種類や名称、形状が異なります。

F1では、フロントウィングやリアウィング、フラットフロア、ディフューザー等が代表的です。フロントウィング、リアウィングは、車両前後に搭載されるエアロデバイスであり、車両で発生するダウンフォースの大半をこの2つで占めています。
外から視認しやすく、車両の外観に大きな影響を与えています。
フラットフロア、ディフューザーは外観からではあまり確認しにくいですが、この2つは車体下部に存在しており、地面と車両の間を流れる空気を考慮する上では、なくてはならないパーツです。

それぞれ、学生フォーミュラで搭載されるエアロデバイスは、当然ながらフォーミュラカーに搭載されるものに類似しています。
各校実際のレース現場同様に、高いリソースを払いエアロ開発をしています。

では、何故高速走行する車両に、ダウンフォースが必要なのでしょうか?
ダウンフォースが必要となってくる場面は、車両が旋回している時です。
単純に言えば、車両が旋回中に、タイヤが滑らないようにするには地面と、タイヤの横方向の摩擦力が遠心力より大きければいいわけです。

エアロデバイスの搭載で、ダウンフォースを獲得すれば、遠心力は増加させずに車両を地面に押し付ける力を、増加させることができます。
速い速度で旋回してもタイヤが滑らなくなります。

ディフューザーCAD
<ディフューザーCAD>

2、 レイアウトの決定

エアロデバイスの設計で、最も重要なのは当然ながらレギュレーションを守ることです。
そして、そのレギュレーションの範囲内で、どれほど効率の良いものを作るかという事です。
ここでいう「効率」とは、重量、重心高に対しダウンフォースをどれくらい発生させることができるかです。
そのために設計を始めるにあたってまずは、目標とするダウンフォースがどのくらいなのかです。

また、車両のどこにどれだけの大きさのエアロデバイスが必要であるかを、検討しなければなりません。
FSAEのレギュレーションでは、エアロデバイスの搭載位置についての規制がほとんどです。
他のパーツに比べて、自由度が高いパーツといえます。
よって、各大学で多種多様な設計を考えます。

また、レギュレーションの抜け道が多く、独創的な設計も多くみられます。 例えば、カウルを空力効果のある形状に設計し、エアロデバイスではなくカウルであると主張することにより、搭載位置のレギュレーションを回避したり、ディフューザーにダウンフォースを得るためのファンを付けてはならない!というレギュレーションを回避するために、冷却用のファンであると、主張したりできます。

これらの抜け道の設計は、大会での車両設計の出来を、審査するデザイン審査での得点に、直接的に影響してきます。 大会での静的審査で、高得点を取るためには、レギュレーションを守りつつより独創的な設計を行わなくてはならないのです。

3、 考慮するパラメータ

エアロデバイスを設計する上で、考慮される値は重量、重心高、ダウンフォース量だけではありません。

有効面積に対して、どれだけ下向きのリフトをしているかの指標であるCL値・どれだけドラッグ(空気抵抗)が発生しているかの指標であるCD値があります。

ドラッグを減少させるためには、前方投影面積を減少させることが、最も効果的であるためCL値は高ければ高いほどよく、CD値は少なければ少ないほど良といえる。
両者は、トレードオフでありエアロデバイスではダウンフォースを高くしようとすると、ドラッグも増加してしまいます。

CoP(Center of Pressure)も重要なパラメータです。
CoPの位置により、ダウンフォースの前後配分が決定されます。

基本的には、ダウンフォース前後配分はどの速度域でも、車両重心が変化しないように車両重心と一致していることが好ましい。
しかし、学生フォーミュラはF1と比べると、速度域が低いためサスペンションジオメトリの設計次第で、ダウンフォース前後配分を重心から大きくずらすことも可能になってきます。

参考までに、今年度設計した車両とF1車両の各パラメータを比較してみましょう。

80km/hでのYNFPと2017年F1の空力値
<80km/hでのYNFPと2017年F1の空力値>

F1では、走行するコースによってレーキ角や、翼の迎角を調整しダウンフォースを重視したセッティングにするか、ドラッグを減少させるセッティングにするかを決定する。
旋回速度が重視されるロードコースでは、よりダウンフォース重視のセッティングになる。

一方で、スーパースピードウェイでは、ダウンフォースを犠牲にし、ドラッグが減少するようなセッティングになります。
結果として、前者のコースは、後者コースの3倍以上のダウンフォースが発生します。
学生フォーミュラ日本大会では、最高速度が80km/h、平均速度が50km/hの低速コースであるため、ドラッグよりもダウンフォースを重視した設計が必要となります。

コース図
<コース図>

表1からわかるように、同じ速度域で計算した場合、YNFPの方がダウンフォースを多く発生させています。
当然のことながら、これは技術力による差ではなく、F1のレギュレーションによる、エアロデバイス機能の厳しい制限がなされているからである。

エアロデバイスの大きさ、前方投影面積は学生フォーミュラの方が大きく、さらに学生フォーミュラでは、リアウィングの搭載位置もF1よりも高く、車両の影響を受けない気流を多くとらえることができます。
その結果、YNFPはドラッグをF1よりも多く受けている。
Cd値を見れば、F1がどれだけドラッグの減少に、重きを置いているかが分かる。

ちなみに、%Frontとはダウンフォース電後配分のことです。
合計ダウンフォースの何%が、フロントタイヤにかかっているかを表しています。
YNFPは、F1よりもリアよりにダウンフォースが発生していることがわかる。

4、 搭載パーツ決定

基本の設計方針は、設定した目標を達成することができるように、車両に搭載するエアロデバイスを決定する。

過去の車両の、エアロデバイスのダウンフォース量と、その車両のスキッドパッド(大会審査項目である8の字コース)ベストタイムを比較して、短縮タイムと重量、ダウンフォース量の関係を簡易的な計算から導き、目標値を設定する。
設定した目標値を達成するために必要な搭載パーツを、重量目標を超えないように決定する。

YNFP17とYNFP18を比較すると、エアロデバイス設計の方針の違いが顕著に表れています。
第一に、搭載しているエアロデバイスの種類が大きく異なっています。

YNFP17はサイドウィング、ディフューザーの搭載のみでした。
YNFP17の設計方針が、エアロデバイスによる車両重量と、車両重心高、ヨー慣性モーメントを増加させずに、ダウンフォースを獲得しようという意図であると分かる。 全体のダウンフォース量は、80km/hで300N程度となり控え目であるが、リアウィングがないことにより重心高が増加することはないです。 エアロデバイスを搭載していない車両は、ボディとタイヤ部分でリフトを起こすので、車両下面を通る空気でダウンフォースを稼ぐのは、ドラッグを上昇させずにリフトを打ち消すことが出来るため、理にかなった設計である。

YNFP18は、ディフューザー、サイドウィングを外しフロントウィング、リアウィングの搭載を行った。
ちょうどこの頃になると、前後ウィングの搭載がトレンドとなっており、多くの大学がフルエアロ(前後ウィング+サイドウィング)を採用していました。
前後ウィング搭載の効果は絶大で、YNFP18のダウンフォースは700Nに跳ね上がりました。

また、ディフューザーを取り外したため、車高をぎりぎりまで下げることが可能となりました。
結果的に、懸念されていたリアウィング搭載による、重心高の上昇はなかったです。
フロントウィングは、サスペンションジオメトリの設計にも影響を受けます。

フロントウィングは、地面との距離が近い程グランドエフェクトの効果を得ることが出来るため、搭載位置は出来るだけ低い方がいいです。
しかし、あまりにも搭載位置が低いと、車両がピッチした時にフロントウィングが地面と接触してしまう。
たとえ接触しなくても車両のロール、ピッチ幅が大きいとダウンフォースの増減が激しくなり、安定したドライビングに悪影響を与えてしまいます。

そこで、YNFP18はフロントウィングの搭載により、サスペンションは固めに設計し、旋回時で車両姿勢変化が少なくなるように。

YNFP17車両
<YNFP17車両>

YNFP18車両
<YNFP18車両>

今年度の車両であるYNFP19の設計では、サスペンションジオメトリの設計で、大きな変更を加えなかったため、旋回性能を向上させるために、さらに高いダウンフォースが必要となった。
各エアロデバイスの性能向上では限界があるため、搭載パーツを増やす方針で設計を進めることになった。

そのため、前後ウィングに加えてサイドウィング、フラットフロア、ディフューザーの搭載を念頭に各パーツの設計を行っていった。
CFDでのダウンフォース計算は、パーツの詳細設計の後に行われるが、結果的に全体のダウンフォースはさらに大幅に上昇し、 1000Nとなった。

YNFP19車両CAD図
<YNFP19車両CAD図>

5、 まとめ

これで設計に入る前の前準備は完了です。
この工程でエアロデバイスのパッケージは決まります。

レイアウトの決定を行った後、次の設計工程である各パーツの詳細設計に入ります。
詳細設計に入る前にしっかりとパッケージを決めることで、今後の工程で設計が迷走することを防ぐことができる。
上記の工程で、しっかりと下地を固めていくが非常に重要となります。

今後の設計工程では、CAD化→CFDによる検証→改良のサイクルを何度も行って、より良い設計が出来るように、ブラッシュアップを図っていきます。
この詳細設計工程については、また機会があれば、コラムで書いてみたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

執筆:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト 青山弘承

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