岐阜大学自動車部です。突然ですが皆さんはクルマを買うとき、何を基準に選びますか?
価格?燃費?デザイン?スペック?人それぞれ基準は異なると思います。それではまず、世間一般にはどんなクルマが売れているのか見てみましょう。
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車種名が水色になっている車種は、ハイブリッドタイプが用意されている車種をあらわしています。ご覧のように上位10車種中9車種がハイブリッドタイプを用意しており、燃費の良い車が人気であることがわかります。
今や自動車の主流ともいえるハイブリッドカーですが、一口にハイブリッドといってもさまざまな形式があるのをご存じでしょうか?
自動車メーカー各社は昨今の激しい燃費競争に負けまいと、個性豊かなハイブリッドシステムを開発しています。今回はそんな自動車メーカーの技術力の結晶とも言えるハイブリッドカー(以下HV)についてご紹介します!
HVとは2つ以上の動力源を持つ自動車の総称で、一般的にはエンジンとモーターを搭載した自動車をいいます。普通のガソリン車に比べ、燃費が良いのが特長です。
「エンジンに加えてモーター、大容量バッテリーなどを積むのだから、クルマが重くなって逆に燃費が悪くなるのでは?・・・」と思われるかもしれませんが、それぞれの特長を最大限活かして燃費を良くしようという狙いがあるのです。
それでは、エンジンとモーターを使うとどんなメリットがあるのか、まずはそれぞれの特性を見てみましょう!
下に示す4つのグラフは、エンジンとモーターそれぞれの出力曲線とトクル曲線のイメージ図です。
出力とはエンジンやモーターが出すことができるパワーの大きさのことです。出力が大きい車ほどサーキットなどで速いスピードを出すことができます。
また、出力はトルクと回転数に比例します。なので、エンジンの出力曲線はたいてい回転数が大きくなるほど出力が大きくなる曲線を描きます。
対してモーターは、ある回転数を越えるとトルクが大きく落ちるので、あるところで出力はほぼ横ばいとなるような曲線を描きます。そして、トルクはエンジンやモーターがタイヤを回す力の大きさのことです。トルクの値が大きいと加速力に優れます。
ストップ&ゴーが多くなる街乗りではこの力は特に重要になってきます。エンジンはある程度まで回転数を上げないと大きなトルクを出すことができないので、加速しようとするとアクセルペダルを深く踏み込むことになり、燃費の悪化につながります。
対してモーターは低回転から最大トルクを発生させることができるので、発進時にはスムーズに加速しエネルギー消費は少なく済みます。エンジンとモーターを組み合わせると、下の赤線、青線のような性能曲線になります。オレンジ色と水色の線はエンジン車の性能曲線です。
ご覧のように、モーターが組み合わさることで出力アップ、低回転における大幅なトルクアップをしていることが分かります。
特に後者はストップ&ゴーの多い環境においては大きな性能改善であると言えます。このように、特性の異なる動力を効率良く使うことで、燃費を良くしています。
ちなみに、ハイブリッドシステム追加による重量増分はトヨタカローラアクシオの場合、同じ排気量にもかかわらずプラス50kgに抑えられていました。(個人的な感想ですが、思ったほど大きい重量増にはなっていないと感じました。)
そして、HVはエンジン車では捨てていた減速時のエネルギーを回収し、再利用する特徴があります。エンジン車で減速する際は普通、ブレーキを使って減速します。自動車の持つ運動エネルギーをブレーキの摩擦による熱エネルギーに変え、放出しながら減速しています。
エンジン車ではただ捨てるだけだったエネルギーを、HVでは回生ブレーキを使うことで回収しています。モーターは電気で動きますが、逆に外部から動力を加えることで発電ができる特徴があります。
これを利用してアクセルがオフである減速時に発電をし、電気エネルギーとして回収し再利用しています。そうすることでエンジンによる発電を減らし、燃費向上に貢献しています。
<HV走行のイメージ>
・エンジンとモーターをそれぞれ効率よく使う
・捨てていたエネルギーを回収し再利用する
この2つがHVの燃費が良くなる大きな理由です。
さて、導入部分でハイブリッドカーにはさまざまな形式があると述べましたが、次に大まかに分かれる3タイプ(シリーズ方式、パラレル方式、シリーズパラレル方式)を紹介します。
【シリーズ方式】
名前にある「シリーズ」とは「直列」という意味で、エンジンとモーターが直列につながっていることを意味します。エンジンで発電し、モーターだけで走るのが特徴です。
エンジンは発電のみに専念できるので、走行状態にかかわらずエンジンを最も効率の良い回転数で動かせることがメリットです。しかし、せっかく搭載したエンジンを動力として使えないので、エンジン+モーターのパワーを得るのができないことがデメリットです。
この方式は自己発電できる電気自動車と言えますが、エンジンとモーターを搭載している
のでHVに分類されます。日産の「e-POWER」がこの方式を採用しています。
【パラレル方式】
「パラレル」とは「並列」を意味し、エンジンとモーターが並列つなぎになっていることを意味します。
パラレル方式はエンジンをメインにしてモーターでアシストしながら走ります。
モーターのみで走行するシリーズ方式に対し、この方式はエンジンも動力として活用できる点がメリットです。しかしモーターを1機しか搭載しないので、発電と充電を同時にできないことがデメリットです。
この方式は日産の「インテリジェントデュアルクラッチコントロール」やホンダの「i-DCD」で採用されています。
エンジンを動力系から切り離すことでエンジンブレーキをなくし、回生ブレーキの効率を高めています。
【シリーズパラレル方式】
文字通りシリーズ方式とパラレル方式を組み合わせた方式です。エンジンは発電にも動力にも使えるのです。
技術的に他の方式と比べて複雑で、この方式を初めて実現したのがトヨタの初代プリウスに搭載した「THS(トヨタハイブリッドシステム)」です。システムに組み込まれる動力分割機構によってエンジンによる発電と駆動を同時に行うことができます。
この特徴的な機構によってエンジンからの動力が発電機と駆動軸に分割され、エンジン、発電機、モーターの効率がそれぞれ良くなるように制御を行っています。現在はTHSに改良を施したTHSⅡが搭載されていますが、基本的な構造は変わっていません。
シリーズパラレル方式は、動力分割機構を用いた「THS、THSⅡ」の他に、ホンダの「i-MMD」や三菱の「PHEVシステム」に採用されています。
これらのシステムは動力分割機構ではなくエンジンと減速機の間にクラッチを搭載し、低速走行時にはシリーズ方式として、高速走行時にはクラッチをつないでパラレル方式として運転できるようになっています。
HVの発電はエンジンで行います。それを外部からの充電によって抑えて、燃費をよくしようとしたのがプラグインハイブリッドカー(PHV)です。
普通のHVよりも大容量のバッテリーを搭載し、なるべく電気で走ろうという自動車です。
これまでに挙げた、駆動用モーター、大容量バッテリーを搭載したHVをストロングハイブリッドといいます。これに対し、エンジン車の電気系にわずかな改良を施した自動車はマイルドハイブリッドと呼ばれます。
燃費性能はストロングハイブリッドに及びませんが、コストや省スペースに優れています。日産の「S-HYBRID」やスズキの「マイルドハイブリッド、S-エネチャージ」に採用されています。
HVのどこが優れているのか、またメーカー各社どんな工夫をしているのか、ざっくりとではありますが説明させていただきました。
メーカーそれぞれのハイブリッドシステムを詳しくみると同じ方式ながらどれも違う機構をしていて、見比べてみると非常に面白いです。
みなさんもこれからクルマを選ぶ際にはただハイブリッドということだけでなく、どのようなシステムなのかを検討すればより良いクルマに出会えると思います。
HV選びの際にはこの記事を思い出していただければ幸いです。
ありがとうございました。
以上
執筆:岐阜大学自動車部