こんにちは、静岡大学自動車部です。
今回は自動車の整備の中でも“基本中のキ!”オイルの交換について、その方法を中心にお話します。
オイル交換はとても一般的な整備で、ディーラーやカー用品店、ガソリンスタンドなど様々な店でオイル交換を受け付けています。
また工賃もそんなに高くないことから、ほとんどの方が業者に依頼してオイル交換を行っているのでないでしょうか。
そのため実際にどのようにオイル交換を行うのか、それを見る機会はあまり無いのではないですよね。
そこで、各種オイルの交換の大まかな流れを紹介します。
実際にプロの方たちが行っている方法とは異なる場合がありますので、あくまで紹介として、車にはどんなオイルがあるのか、どんなオイルを交換するための部品があるのか、交換にはどんな道具が必要なのかなどを見ていきましょう。
自動車にはエンジンオイルを始め、ブレーキフルード、パワーステアリングフルード、MT車の場合ミッションオイル、クラッチフルード、AT車の場合オートマフルードなど、多数のオイルが使われています。このオイルというものは熱や水分で成分が分解したり、空気中の酸素によって酸化したりします。
オイルは、こうした様々な原因で劣化します。そのため、車をあまり走らせていなくても定期的な交換が推奨されます。
また、夏や冬に向けてそれぞれの気温に対応できるように交換する、サーキットで走行するために交換するといったように、環境の変化や目的に応じて使うオイルを今までとは違うものにするという目的で交換をすることもあります。
例えばエンジンオイルでは、冬に向けて粘度の低いオイルに交換する、オイル交換をするのが面倒だから長持ちするオイルに交換する、より高いエンジン性能を得るためにトルクやパワーが増えやすいオイルに交換するといったようなことがあります。
このように、オイルを交換する意味は性能の維持や車の保護を基本として、車の性能を自分の目的や好みに変えるため、と多数あります。
まずは最もよく交換されるオイル、エンジンオイルの交換方法から見ていきましょう。
1.車の下に入れるスペースを確保する
こちらは比較的簡単にできる馬(ジャッキスタンド)を使う方法と、車をスロープやラダーの上に乗せる方法です。車体を水平にするのが好ましいですが、傾いていても交換は可能です。車体の傾きによってオイルの抜ける量が変わるということに注意します。
2.オイルフィラーキャップを開ける
オイルを抜く前に、オイルを入れる所が開くかどうかの確認のため先に開けておきます。
3.オイルを抜く
エンジンの下部オイルパンのドレンボルトを緩めてオイルを抜きます。
大抵14mmか17mmの六角ナットです。
4.ジョッキに新しいオイルを入れる
オイルが抜けるまで待つ間、新しいオイルを入れる準備をします。
何リットル入れるか、しっかり確認しておきます。
5.オイルが概ね抜けたことを確認してドレンボルトを締める
オイルパンから出るオイルが、ポタポタとなり始めたら概ね抜けています。
オイルがポタポタとなったらドレンボルトを締めます。
完全に抜けきることは、まず無いため気にしなくて大丈夫です。
ドレンワッシャーは、オイル漏れを防ぐ役割を持ちます。
基本的に、ドレンボルトを外して付ける度に新品に交換します。
ドレンボルトを締め付けるときには、トルクレンチボルトを締めるけることが推奨ですトルクレンチは、設定した任意の力(トルク)で作業が出来る工具です。設定したトルク以上は力が作用しないので、不用意に締め付けすぎたりしてネジ山が潰れる事を防ぎます。
使用しないと、締め過ぎでネジ山を潰してしまうので注意が必要です。
6.新しいオイルを入れる
フィラーから新しいオイルを入れて、キャップを締めます。
給油するオイルの量は、車両取扱い説明書に記載してあります。
7.オイル量を確認する
車体を下ろして、水平な状態にしてからエンジンを掛けます。
その後、エンジンを止めてオイルレベルゲージでオイル量を確認します。
このときどれくらいの間エンジンを掛けて、止めてからどれくらい待つのかという問題がありますが、これについては後ほど。
次は、ミッションオイル(マニュアルトランスミッションのオイル)の交換方法を見ていきましょう。
ミッションオイルは通常、エンジンオイルよりは交換頻度が少なく数万km走行でやっと交換するくらいです。自動車メーカーによっては無交換で良いとしているところもあるようです。しかし、サーキットで走行する場合などは劣化が激しいため、エンジンオイルと同じくらい頻繁に交換されます。
1.車の下に入れるスペースを確保する
エンジンオイルと同様に馬やスロープを用いますが、車体が水平になるようにします。
ミッションオイルはオイルレベルゲージが無い車種が多いため、特にオイル量に注意して常に車体が水平な状態で交換するようにします。
2.フィラーボルトが外れることを確認する
トランスミッションの場合は、17mmや24mmの六角や、3/8インチ差込角のボルトなど車種によって違います。
3.ドレンボルトを外す
ドレンボルトの頭もフィラーボルト同様、車種によって様々です。
4.新しいオイルを入れる準備をする
ミッションオイルの入れ方は、車種によって様々です。
入れやすい車種は、上の画像のように蛇腹ホース付ジョウゴをフィラーに繋いで重力でオイルを入れることが出来ます。
ミッションオイルを入れにくい位置にフィラーがある場合は、上の画像のような“オイルサクションガン”を使用します。シフトノブの真下に、ミッションがあるような車種はシフトノブの下からオイルを入れることができる場合があります。
車種により違いはあっても、基本的にミッション下部にドレンボルトがあり、ドレンからオイルを抜きます。ミッション横部もしくは上部に、フィラーボルトがあり、フィラーからオイルを注入します。
5.オイルが概ね抜けたことを確認して、ドレンボルトを締める
ミッションケースはアルミ製なので、締め付けすぎないように注意します。
6.新しいオイルを入れる
大抵の車は、フィラーからオイルが溢れ始める程度でちょうど良いオイル量になります。
車体が傾いていると、入りすぎたり逆に足りなかったりするので注意します。
ミッションオイルを入れ終わったら、フィラーボルトを締めて交換完了です。
ブレーキフルードはブレーキの力を各ブレーキキャリパーに伝える役割を持っています。
空気中の水分を吸収する性質があるため、走行距離が少なくても定期的な交換が必要です。
1.4輪とも上げてタイヤを外す
サイドブレーキがリアのフットブレーキと共有されている場合は、サイドブレーキを下ろしておきます。
2.フルードを抜く準備をする
キャリパーのブリーダープラグに、フルードを抜きだし捨てるためのケースに繋いだホースを取り付けます。ブリーダープラグを緩めるための工具も取り付けます。
ブリーダープラグはとてもなめやすいので、スパナではなくフレアナットレンチやメガネレンチを使います。8mmや10mm、11mmの六角など、車種によって細かく違うので注意します。万が一なめた、或いはなめていた場合は、バイスプライヤーなどの工具を用いてブリーダープラグを外し、新品に交換します。
3.リザーバータンクの蓋を開けて置く
リザーバータンクは、エンジンルームのブレーキペダルがある方にあります。
ここから新しいフルードを追加するために開けておきます。
フルードを抜いていくとタンク内のフルードが減っていくため、随時新しいフルードを追加します。
リザーブタンクが空になってしまうと、ブレーキ周りの配管に空気を吸ってしまうため、リザーブタンクを空にしないように注意します。
4.ブレーキペダルを踏んでフルードを抜いていく
基本的にブレーキマスターシリンダーから遠いキャリパーから抜いていきます。
ブリーダープラグを緩め、ブレーキペダルを何度か踏み、リザーブタンク内のフルードが少なくなってきたら追加します。
古いフルードは劣化で色が変わっているため、ブリーダープラグから出てくるフルードの色が変わったら交換完了となります。
クラッチフルードと言いますが、実際に使用するフルードはブレーキフルードと同じものを使用する場合がほとんどです。
ブレーキフルードとタンクを共有している車種もあります。
1.フルードを抜く準備をする。
同じフルードを使用するだけあって、交換方法も似ています。
クラッチの場合はレリーズシリンダーという部品にブリーダープラグが付いています。
レリーズシリンダーは、ミッションとエンジンが繋がっている部分の近くにあります。
車体をジャッキアップしなくても、作業できる場合が多いです。
同じように、ホースとブリーダープラグを緩めるための工具を取り付けます。
2.クラッチペダルを踏んでフルードを抜いていく
ブレーキのときと同じようにブリーダープラグを緩めてクラッチペダルを何度か踏み、古いフルード抜いていきます。
タンク内のフルードが少なくなってきたら新しいフルードを追加していき、ブリーダープラグから出てくるフルードの色が変わったら交換完了です。
以上、各オイルの交換方法でした。
こうしてみると意外と交換の為にも車が作られており、工具も特殊なものは少なく、扱うのが難しいものも無いですね。
余談ですが、“オイル”の話しをしているのに途中から“フルード”と呼び名が変わりました。
フルードとオイルの違いは、オイルの精製成分の違いではなく、
「フルード=伝達用オイル(作動油)」
「オイル=潤滑用オイル」
です。
ミッションオイルでも、最近のAT車に多いCVTタイプのミッションは“CVTフルード”と呼びます。
CVTフルードの交換方法は、基本的には同じような作業をするのですが、交換後にはスキャンツール(車両診断機)をOBD端子に接続して、油温による油量調整を実施しなければなりません。多くの車両の取扱説明書には、CVTフルード交換は、販売店にご相談下さいと記載してあります。
では最後に、オイルを交換する上での一つの問題、“オイルの量の計測”です。机上の理論より実践ということで、オイル量の計測について実験をしてみました。
エンジンオイルの量を確認するために、オイルレベルゲージというものが備え付けられています。
そのオイルレベルゲージを用いてオイル量を確認する方法として、
・エンジンを少し回してからとか測る
・エンジンを回して止めてから何分間待ってから測る
等々、様々なタイミングを耳にします。これに対して今回は、オイルレベルゲージで測るタイミングの違いと、そのとき計測したオイル量の違いの関係を見ていこうと思います。
今回の実験車両は<トヨタ セリカ ST202〉搭載エンジンは3S-GE VVT-iです。
この車両の修理書によるとエンジンオイル量の正しい測り方は、エンジンを暖気したのち停止状態で5分間放置後に測るという方法と整備手帳に記載されています。そのときレベルゲージが、Fになっていれば正常とのことです。
水温はOBD-IIから取得し、油温(エンジンオイルの温度)はオイルフィルターの部分に後付けしたセンサーから取得します。
アイドリング、測定までの放置の間は全てボンネットを開けておきます。
レベルゲージは一度取り出し、ウエスでオイルを拭き取ってから再度差し込んで測ります。
◇ 修理書に基づいた測定方法
エンジン始動時の水温:55℃ 油温:50℃以下(測定可能範囲が50℃~)
始動後、エンジン回転数が800rpm以下になったときを暖気終了とし、エンジンを停止。
エンジン停止時の水温:80℃ 油温:57℃
エンジン始動から停止までの時間:3分30秒
この車両のオイルレベルゲージは曲がりくねっていてオイルが余分に付きやすく、写真では見にくいため目視での位置を赤色の矢印で示しています。
◇ 油温が高いとき
アイドリングではなく5kmほど走行してきてからエンジンを停止。
エンジン停止時の水温:90℃ 油温:87℃
油温が低い状態の①と②や、油温が高い状態の④と⑤では、エンジン停止時間による差はほとんどありませんでした。
しかし、エンジン停止から30分後の③と他の結果は少し差がありました。放置時間が長いほどレベルゲージのFに近付くようです。油温が低い時の①と④、②と⑤を比べると若干④、⑤(油温が高い)の方がレベルゲージのFに近くなりました。
結果として特によくオイル交換後に確認するような、エンジンを停止してからの数分の差では、あまり大きな差はないことが分かりました。また、油温による差もあまり大きくありません。
このことから、オイル交換後にエンジンを回してから少し待ってエンジンオイル量を確認するときの数分の差から、大きな違いが出ることは無いです。
だから、エンジンオイル量の正しい測り方はこれ! と、いうのは調べてもなかなか出てこないのかもしれません。
それよりも、オイルをどれだけ抜いてどれだけ入れたかなどの情報を記録することや、レベルゲージで測ったときの状況によってオイル量がどのくらい増減するかなどを把握していることの方が重要なのです。
車を用いた実験が流行るといいなと期待して、自分でも実践してみました。
自動車は、本当に変化の元になる要素が大変多くて実験に用いるのはとても大変です。
オイルレベルゲージについての“モヤモヤ”が少しでも晴れていただけたら幸いです。
逆にモヤモヤが増えたという声も聞こえてきそうですが、その場合は是非ともさらに掘り進めていただきたいです!
(執筆:静岡大学自動車部)