車の敵「錆び」。長く乗りたいと思っていた車も、錆びが回ってしまい、泣く泣く廃車にしたこともあります。
そんな経験から、錆びる前になんとか手を打ちたいと思い、コーティングをしてみた、というお話です。
以前、私が廃車にした愛車は「スズキ カプチーノ」、バブル後半の1991年に発売された車です。前後ダブルウィッシュボーン、2名乗車時に前後重量配分51:49、といったこだわりを感じられるポイントが多くあります。
車重は700kgで、ライトウェイトスポーツカーの中でも、軽量な部類。(ロードスターNAは940kg、ケータハムは約500kg、ビートが760kg、GT86が1210kg)
これだけ軽量にするとなると、ボディの板厚を薄くしたり、各部にアルミを使用したり、さまざまな工夫が施されています。そのため「軽量化」という意味では理にかなっていますが、「耐久性」の面から見るとかなり辛いものになっています。
カプチーノのフロアは、薄い一枚で構成されているため、少し車体が地面に擦った程度で、足元が盛り上がるのがわかります。軽くて使いやすい車ですが、そんな一面もあるのです。
好きな車なら一年中乗りたいし、シーズンオフなんてない、というのが理想ですよね。しかし雪国では、道路にまかれた融雪剤で車がやられます。それが海辺になれば、海水の塩分にやられます。そして牧場の近くでは、家畜の糞に含まれる塩分にやられることもあるのです。
普通車ならまだ鉄板が分厚のですが、軽自動車は鉄板が薄く、軽トラなどは穴が空いている、なんてのも良く見かけたりします。(うちの軽バンも穴だらけ…)
上の写真は、実際に穴の空いたボディです。融雪剤と雨漏りで内側と外側からやられました。
このほかにもいくつも穴が空いていて、雨の日は下から水が入ってきましたこんな状態では車検にも通らないし、いつ床が落ちてもおかしくない。かといって、レストアしようにもかなり金額がかかる…。
そんなこんなで、愛車を泣く泣く廃車にすることになったのです。最後はジャッキアップもままならないほどに、車体の下が腐食していました。
後に分かったことなのですが、かなりボディ剛性が落ちていて、補強を入れていたにもかかわらず、4輪がバラバラな印象でした。当たり前のことですが、車本来の乗り味や、剛性を求めるなら、補強の有無よりも、ベースとなるボディの状態が大切だと、思い知りました。
「二度とこんな思いはするまい」と、次に同じ車種を購入したときには、絶対に対策をしようと、心に決めていました。
エンジンやミッションなどの部品は替えが効きます。しかし、ボディは替えが効かないと思い知ったので、予算の許す範囲で、ボディの状態が良いものを選びました。車を引き取っての帰り道、運転してみて実感したのは、段差を越えるときのボディのヨレの少なさや、高速走行での不安感の少なさでした。
このカプチーノに乗るまでは、カプチーノは剛性が足りていない車だ、と思い込んでいました。しかし状態の良いボディに乗って、それは思い込みであったことがわかりました。
同じ車種でも、年数の経った車では、個体差が大きいのです。ボディ剛性が足りていない車体は、いくら高いタイヤを履いて、いい足をいれ、いいエンジンを積んでも、走りの限界は低くってしまいます。
これまで錆び対策について感じていたのは、車検毎に塗るようなシャシーブラックでは、前回同様ボディが朽ちてしまうということでした。今回こそは、「しっかりとしたコーティングを施したい」、そう思ってたどり着いたのは、旧車などのレストア後に使用される「ボディシュッツ」という製品でした。
製品の説明にはこう書かれています。
「ゴムベースでノンアスベストタイプのボデーアンダーコーティング剤です。フェンダー、ボンネット、トランク内部、車体の下回りのコーティングに使用します。乾燥が早く、コーティングされた皮膜は、防錆、防振、防音に優れ、鉄板に対する密着性も優れています。また、耐水、耐候性にも優れています。」
缶に直接挿せるタイプのスプレーガンも有りますが、今回はできるだけ安く仕上げようと思い、サンドブラストなどで使われる、粗い粒でも使用可能なもので代用しました。
自分で施工しようとすると、コンプレッサーがあり、車の下にもぐることのできる環境がないと、少し厳しいと思います。身体に悪いものなので、ある程度の防護服、保護メガネ、マスクを着用してボディに塗布しましょう。
それではさっそく、愛車のコーティング作業をしていきます。
まず初めに下回りからです。
まずはセンタートンネルのパネルや、ブレーキライン保護のパネルなどを取り外していきます。この状態で少し見えていた小さな錆びには「転換剤」を塗り、赤錆から黒錆に転換しておきます。
次にマスキングです。グロメットやボルト、足回りにかからないように、マスキングテープで隠していきます。準備ができたら、いよいよボディに吹き付けていきます。
施工後です。ゴムの粒が次々に飛んていき、それが重なって膜ができていきました。文字通り「一枚の保護膜」ができました。触った感触は、硬い面ではなく、タイヤのような少し柔らかいゴム、といった感じです。
次はホイールハウスです。
4点を「ウマ」で上げます。挟まれないように、慎重に上げましょう。
車をジャッキアップしたときに、挟まれて死亡する事故も起きています。きちんとサイドブレーキや、車止めを利用し、車体が予期せぬ動きをしないようにしましょう。また、ウマであげるときは、各々の車体にあったジャッキアップポイントを確認し、壊さないよう気をつけましょう。
この状態からホイールを外し、トランク下も塗るために、リアバンパーも外します。必要なものが外れたら、下回りと同じように、ボルトやグロメット、サスペンションにかからないよう、マスキングしていきます。
下回りとは違い、ボディにもかかる可能性があるので、ボディ側も軽く覆うくらいマスキングをしました。
施工後です。この塗料はシンナーで取れるので、ボルト類にかかってしまった箇所がいくつかあったのですが、シンナーで拭いておきました。
使った器具も同じように、シンナーで掃除できます。あとは元通りにホイール、バンパーをつけて作業終了です。
作業後はやりきった気持ちがいっぱいで、しっかり塗れていないところがある事に、気がつかない程でした。
「ボディシュッツ」はスプレータイプもあるので、そういった細かい部分の塗りなおしは、スプレータイプで後日行いました。コンプレッサーはないけれど、ホイールハウスだけが気になる、という方はスプレータイプで塗るのがいいかもしれません。
しかし、コンプレッサーを使ってガンで施工した方が、格段に綺麗に粒が揃った塗装面ができます。スプレータイプは、吐出量の調整が難しく、一定の厚さに仕上げることが難しい、と感じました。できればコンプレッサーを使用できる環境が、望ましいです。
十分に乾燥させたあと試乗してみました。普段よく、タイヤが巻き上げた小石がボディ当たって、コツコツ音がなっていたのですが、「ボディシュッツ」を塗った後は、かなり静かになりました。そのほかにも、水溜まりに入ったときの音が軽減され、静音性がかなりあることがわかりました。
一冬乗ったあとに、下回りを確認したのですが、目立った剥がれもなく、塗ったあとの状態が維持されていました。車高が低い分、底をすることもたまにあるのですが、少し跡が残る程度で済んでいました。
気になった融雪剤による錆びは、ボディシュッツを塗ったところには確認できませんでした。ボディシュッツを塗っていない部品には、細かな錆びが浮き出ていたので、外側からの錆びは、思惑通り保護してくれていることがわかりました。
しかし一冬で足回りの錆びがここまで進むとは思っていなかったので、一年中乗るならメンテナンスが大切だ、と思い知りました。塗装面が黒いので、汚れが目立ちやすく、下回りが洗いやすくなりました。
ここまでは、ボディシュッツの良いところを述べてきましたが、デメリットについても考えていきます。
これは「シャシーブラック」にも言えることなのですが、こういった黒い塗料は、悪く言うとアラ隠しです。ボディの状態を確認できなくなります。下からの侵食は防いでくれますが、内からの錆びがある場合、その進行を確認する術はありません。
内装を剥がしでもしない限り、見えなくなります。理想的な防錆びは、透明な塗料なのですが、これだとボディシュッツに比べ、高価になってしまいます。
「ボディシュッツ」は比較的安く、簡単に仕上げられ、長く保護してくれますが、ここが弱点です。
愛車を長く維持したいなら、雨の日は乗らない、汚れた路面は走らない、雪の日は乗らない。そうやって使うしかありません。
何が車のためかは、人それぞれの価値観があります。私はできる限り日常的に乗っていたいし、いろいろな場面、その時その時の道での情景を楽しみたいです。
ボディレストアや板金・旧車パーツのワンオフなどの技術は、昔に比べ格段に進んでいます。極端にいうなら、資金さえあれば、好きな車をずっと維持し、乗り続けることができます。
しかし、好きな車にどれだけお金をかけられるかがその車を維持できるかどうかの大きな分かれ目になってしまうのも一つの現実。結局のところ、車両を保護したいのであれば、飾っておけとなるのでしょう。
今回は車の保護のために「ボディシュッツ」を塗りましたが、自分の使い方では遅かれ早かれ、車はボロくなっていくんだろう、という先が見えました。それでもこまめに洗車するとか、雨漏りを起こさないようにする、排水の経路を綺麗に保っておくなど、出来ることはあります。
こまめにメンテナンスをして、できるだけ長く、たくさん走れるように愛車を大切にしていきたいと思います。
以上
(執筆:岐阜大学自動車部)