こんにちは、名古屋大学体育会自動車部です。
突然で恐縮ですが・・・ 皆さん、
「交通事故」に、遭ったことはありますか?
私は、幸運にもこれまでの人生で事故の当事者になったことは一度もありません。
しかし、もし車に轢かれたら…
逆に、人を轢いてしまったら?
と、考えるだけでも… ぞっとします。
「ちょっとぶつけちゃった」くらいなら私も経験あります。相手が人じゃなかったから、良かったものの、それでも悲しいです。
でも、事故を起こした人達はみな、事故を起こしたくて起こした訳ではないはずです。
ではなぜ、交通事故は起きてしまうのでしょうか?
皆さんは、「○○県の人は運転が荒いから、そこでは多くの事故が起きているのだ!」という趣旨の主張を、聴いたことはありませんか?
私はありますし、自分の住んでいる県が運転マナーの悪い県だと言われることはしばしばです。ですが、本当に事故が起こりやすい地域とそうでない地域は存在するのでしょうか?
図1は、都道府県別でみた交通事故死者数です。
この図を見ると、どの県で事故がたくさん起こっているかよく分かりますね。
1位:愛知県
2位:大阪府
3位:千葉県
4位:神奈川県
~ 中略 ~
46位:島根県
47位:徳島県
私の住んでいる愛知県は、毎年ワースト1位を維持し続けていて、「名古屋走り」と、呼ばれる運転マナーの悪さが原因だと言われることが多いです。
ですが、この死者数ランキングの上位にいる都道府県は全体的に人口が多いです。また同時に、車の保有台数も他の県に比べて多い地域であります。
そのため、ある意味事故が多いのは、当然のことだとも言えます。ただ単純に、死者数が多いから事故が起こりやすい県だと結びつけてもよいのでしょうか?
車と人が存在すれば、必ず事故は起きてしまうものです。車と人が、多ければ多いほど事故は多くなるだけであって、事故が起こる「確率」が高いわけではないですよね。
「母数が多ければもちろん事故も増えます、愛知県にそんなに悪いイメージ持たないで!」と、愛知県民の私は申し上げたいのです(笑)。
では、何を基準に交通事故が起こりやすい地域だと判断すればよいのでしょうか?
それは、ずばり交通事故死亡率ではないでしょうか。交通事故死亡率とは「交通事故で亡くなられた人の、人口に対しての割合」です。
この指標をみれば、同じだけの人が居たとして、その地域で何人が交通死亡事故で亡くなったのかが分かります。今回はこの交通事故死亡率で事故の起こりやすさを判断していきます。
図2を見ると交通死亡事故率は各都道府県で大きく違うことが一目で分かります。これで地域差があることは分かりました。ちなみに愛知県は全国平均を下回っています。あなたが住んでいる県はどこに位置していますか?
ざっくりと「交通死亡事故を引き起こす要因」といっても、本当に様々です。ですが、すべての要因は二通りの考え方に分けることが出来きます。
まず“大きな考え方”です。
事故が起こりやすい「環境」に注目して、「こんな地域ではこんな事故が起こりやすい」という傾向から要因を見つける考え方です。例えばこれらは仮説ですが、人口密度の高い地域では人がたくさん居るから事故が起こりやすかったり、警察官が多く居る地域では取り締まりが厳しいため、事故が少なくなったりするかもしれません。
この大きな考え方は、これまでお話してきた「地域ごとに事故の起こりやすさは変わる」という考え方に拠ったものです。皆さんが普段生活されている地域がどんな特徴を持っていて、そこでは事故がおこりやすいのか、起こりにくいのか、知っておくことは普段の生活において少なからず役に立ちます。
次に“小さい考え方”です。
交差点付近では事故が多くなったり、道路の幅が狭いと事故が起こりやすくなったり等、一つ一つの事故には事故が起こってしまった細かな要因があります。これはどの地域でも共通する、より具体的な要因です。
今回は地域間での事故率の差異を見たいのでこの小さな考え方は捨てますが、どれだけ事故率の低い地域でも安全運転を心がけないと(心がけているつもりだったとしても)事故を引き起こしてしまう可能性があるということを忘れてはいけません。
もし、この具体的な要因について知りたいという方は、政府によってまとめられた「交通安全白書】を検索して、ご覧になると良いでしょう。例えば、どの道路状況でどれだけの事故が発生しているのか分かります。
その他にも交通事故に関わる事柄がまとめられていますので、読んでみるのも面白いかもしれません。
「最近の交通事故発生の動向に関する研究(第1報) 都道府県レベルでみた発生要因」という研究での論文内では大量のデータを用いた統計的な分析が行われています。内容はとても難しいのですが、交通事故の発生要因について幅広く分析がなされています。
是非皆さんに紹介させてください。内容を、かみ砕いて説明します。
まず、主成分分析という分析によって、交通死亡事故率に影響を持つ二つの傾向が見つかりました。
まず、“都市化”の傾向です。難しく言っているだけで要は人口密度が高かったり、高齢者の方の割合が小さかったりすれば都市化が進んでいると言えます。
もう一つは“起きる事故の大きさ”です。
事故が大規模なものであれば、事故が起こった後の致死率は高くなります。生活道路での事故は小さいものが多いので、生活道路の割合もこの傾向に少なからず影響しています。
この二つの傾向については、そんな傾向で都道府県を見分けることができるのだな、程度に思っていただければ結構です。
その二つの傾向の組み合わせから、交通事故の起こりやすい四つの特徴的な地域が見つかりました。その四つの地域とは、
1.交通的僻地
2.首都圏
3.街道地域
4.隔絶地域
です。
一つずつ解説します。皆さんが普段生活されている地域は以下のどれに近いか、考えてみてくださいね。
都市化の傾向が低い地域で、具体的には長野、鳥取、徳島、香川、高知がこの地域に分類されます。人口密度の低さが最もわかりやすく、なおかつ判断しやすい指標として使えるでしょう。
都市化の傾向が高い地域で、具体的には東京、埼玉、千葉、神奈川がこの地域に分類されます。
起こる事故の規模が小さい地域(=生活道路での事故の割合が大きい)で、具体的には栃木、静岡、京都、広島、福岡がこの地域に分類されます。簡単に言えば、住宅街が多い地域と言えるでしょう。
都市化の進んでいる地域と、ベッドタウンが地域に混在している地域です。
起こる事故の規模が大きい地域(=生活道路での事故の割合が小さい)で、具体的には岩手、岐阜、島根、長崎、宮崎がこの地域に分類されます。こちらの地域を簡単に言い換えるならば、県の土地の中で住宅街の割合が少ない地域です。
また、事故が発生した後、雨や雪の気象的な状況、もしくは海岸や山などの地形的な状況から交通が阻害されやすい地域でもあります。
それぞれの地域で交通事故に関する特色が見られたそうなので、以下にまとめます。
1.交通的僻地
この都市化が進んでいない地域では、死亡事故と、事故全体の中での生活道路上の事故の割合が他の3地域に比べ最も高いです。要因としては首都圏に比べて医療機関が不十分なこと、交通規制が緩い等の安全対策の遅れが考えられます。
2.首都圏
最も交通量が多い地域ながらも、最も交通死亡事故が起こりにくい地域といえます。
要因としては医療機関の充実、厳しい交通規制、安全対策の充実等が挙げられます。
交通量が多いのに事故が起こりにくいというのは逆説的ですね。
3.街道地域
首都圏とは全く逆で、交通事故の発生件数、生活道路上での交通事故の発生割合(人口比)が最も高く、「交通地獄」とも言うべき場所です。
また、ひき逃げ発生件数率が高いです。この原因として挙げられているのは人口増加や宅地開発に対して道路網の整備や拡張が進んでいなかったり、交通規制が後手に回ってしまったりすること等です。
4.隔絶地域
この地域は、総交通事故発生件数が最も低い地域であるが、交通事故発生後の致死率が最も高い地域です。
つまり、この地域では事故は起こりにくいけれど、もし起こってしまったら人が亡くなってしまう確率が高い、ということです。
その原因としては、全国平均を大きく下回る医療機関の割合です。対道路長比でみれば、都市の約半分しか病院はないのです。救急車で負傷者を運ぶ時間が、長くなればなるほど事故後の死亡率が高くなります。
以上が大きな視点で見た交通事故発生要因です。
地域によって、様々な特徴があることが分かりました。私としては、病院が少ないという理由で交通事故が交通死亡事故になってしまうことがたくさんあるという事実に少し驚いています。
もちろん、だからといって病院がたくさんある地方に住むべきだという極論を申し上げるつもりはありません。
しかし、車を運転したり、街を歩いたりするときに、皆さんの住んでいる地域ではどんな事故がどんな要因で起きやすいのかを、少しだけ頭の片隅において頂ければ今よりも安全な生活に近づくことが出来るのではないでしょうか。
少しでも、安全運転に役立てていただければ嬉しく思います。
執筆:名古屋大学体育会自動車部